2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00484
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 亡命ロシア哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はロシア革命後の亡命ロシア人の哲学思想に関する研究である。とりわけ、ベルジャーエフ、フランク、シェストフの哲学が中心的な研究対象となる。 当初予定していた研究の順番を変更し、亡命期のロシア思想の全体像を捉える作業を最初に行うことにした。今年度は主に二次文献をもとに亡命哲学者たちの基本情報を整理する作業を行った。ロシア亡命哲学に関しては、管見の限り、その全体像を捉えるような研究はまだ存在しない。我々は上記の三人の思想家の他、ノヴゴロッツェフ、ブルガーコフ、イリイン、ヴィシェスラフツェフ、カルサーヴィン、ロースキー、ステプン、フロロフスキー、ストルーヴェ、ゲッセンなど、主要な思想家たちに関する個別研究を調査し、そこから得た情報を総合して亡命ロシア哲学の全体像を予備的に把握することを試みた。 その際、特に亡命地、世代、思想内容に留意した。亡命地に関して言えば、ユーラシア主義を生み出したソフィア、マサリクの下で「アクション・ロシア」という政策がとられていたプラハ、聖セルギイ神学院が所在したパリ、亡命後の数年間亡命者が集中的に存在したベルリンなどが空間的に重要な意味を持っているが、哲学者たちが職を求め、またナチスを逃れて頻繁に空間的な移動を行うため、亡命地と思想内容の関係はそれほど強くはないことを明らかにした。 また世代に関して言うと、亡命前から一線で活躍していた1870年代生まれの思想家が中心の第一世代、1880年代生まれが中心の第二世代、亡命後に思想家としての本格的な活動を開始する1890年代生まれが中心の第三世代、さらにそれ以降の第四世代に分けられるが、第一世代と第二世代には比較的連続性があるのに対して、第三世代になると傾向の違いが生じるということ、具体的には形而上学的な志向を持つ前世代と経験的なものを重視する第三世代という違いが生じるということを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、研究の順番を変更したものの、今年度の研究で、亡命ロシア哲学について基本的な情報は手に入れることができたと考える。その情報はあくまでも本格的な検討を開始する前の予備的なものではあるが、今後の研究を進める上で有益なものであったと考える。その意味では研究は予定通りに進んでいると言ってもかまわない。 しかし、全体像を把握できたことで、当初予定していた研究を遂行するために検討しなければならない問題や通読しなければならない資料が、当初の想定よりも多いであろうことが予想されるようになった。 その点を考慮すると、研究の速度を上げるか、当初の予定を変更して一部の研究対象を研究計画から外すか、いずれかで対応しなければならないと考えられる。いずれを選択するのかは今後の研究の進捗状況を考えて判断することになるが、現時点では当初の予定通りの範囲を研究するという前提で考え、進捗状況は「やや遅れている」を選択することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、当初の計画ではまずシェストフの思想の研究を行い、その後に亡命ロシア哲学の全体像を概観する作業を行う予定にしていたが、順番を入れ変えて、初年度に亡命ロシア哲学の全体像の概観を行ったため、次年度からシェストフの思想の研究を始めることになる。 まずは亡命前のシェストフの著作を読むことと、基本的な二次文献の調査から始め、その後、亡命時代のシェストフの著作、さらに二次文献をより広く調査する作業を行う。そうした作業を終えた後、シェストフの思想についての論文を執筆しようと考えている。これらの作業におよそ二年程度の時間を予定しているが、最初の一年である次年度にどの程度までその予定を実現できるのかによってその後の研究計画の変更が必要かどうかを判断することになる。 シェストフの研究を終えた後、次の研究対象として取り上げる予定にしているのはベルジャーエフとフランクの亡命時代の思想である。この二人の思想家の亡命前の著作については、これまでの研究ですでに検討済みであり、かつ彼らの思想の基本的な構想も理解できていると考えているので、今回検討の対象とする彼らの亡命後の思想も、その延長線上で理解できるはずである。そのため、これらの二人の亡命後の思想については、シェストフの研究ほどには時間は掛からないと考えられる。彼らの思想の検討にはそれぞれ一年程度を充てることを予定している。フッサールやハイデガー、シェーラーやユングなど、同時代の西欧思想に関する彼らの言及に特に注意しながら資料の解読を行っていくことにしたい。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた書籍の入荷が間に合わなかったため。
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