2018 Fiscal Year Research-status Report
林忠正関連資料の再発掘による19世紀末~20世紀初頭の日仏関係史の再考察
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18K00488
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
高頭 麻子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60287795)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジャポニスム / 林忠正 / 19世紀末日仏関係 / 1900年パリ万博 / 明治の殖産・美術政策 / 浮世絵・春画 |
Outline of Annual Research Achievements |
林忠正は、これまでジャポニスムを推進した美術商として、主に美術史分野で研究されてきた。しかし、彼が渡仏した1878年当時、日本は明治維新を経て、不安定な体制のまま急速に政治体制・技術文化の西洋化・近代化をはかっており、フランスは普仏戦争の敗北から立ち直り独英に負けない技術・文化力を数度のパリ万国博覧会で示そうとしているところだったこと、その後の、芸術と娯楽と新しい科学技術が花開いた世紀末のパリの人々は、江戸の自由な文化に憧れ、幻想の「日本」を夢みていた。林は、全く異なる文化相互の幻想・誤解の仲介をしながら、闇雲な富国強兵に走る日本のメディアと闘いながら、西洋に負けない文化的な近代国家としての日本の姿、日本の誇りを1900年の万博で示そうと奔走したことを忘れてはいけない。 このように、より広い世界史の中に林の活動を置き直し、19世紀末から20世紀初めまでの日仏関係を考察するため、50年にわたり林の研究を続けてきた木々康子氏の収集した膨大な史資料と、林本人が遺した1次史料の整理・データ化が本研究の重要なミッションである。 2019年2月19日~5月19日に国立西洋美術館で、木々康子氏の所蔵品を中心とする「林忠正展」が開催されたため、その準備もかねて、1次史料の総点検と、ひととおり写真撮影を行えたこと、19世紀末のフランスほか欧米諸国と日本での、林の幅広い文化交流と活動の軌跡を広く一般に公開できたことは大きな成果と言える。 また、林家に残されていたフランス人の日本研究者レオン・ド・ロニーが1868年に刊行したが、その1号で終わった日本語新聞「世のうはさ」の現物が、木々康子邸で発見された。この新聞の趣旨と挫折、ロニーの人物と林との関係について、総合社会科学会の学会誌『総合社会科学研究』第31号に、研究ノートとして小論「フランスで初めての日本語新聞『世のうはさ』について」を掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度の研究実績蘭にも書いたように、50年間にわたり林忠正の研究を続けてきた木々康子氏の収集した膨大な史資料と、林忠正本人が遺族に遺した1次史料の整理・データ化が本研究の重要な基礎的作業であるが、2019年2月19日~5月19日に国立西洋美術館で開催された「林忠正展」のために1次史料の重要な部分を半年間(2018年11月~2019年5月末)、西洋美術館に貸し出していたため、それらについての詳細な調査・解読・位置づけはペンディングになってしまった。 木々康子氏の健康状態が2018年春から著しく悪くなってしまったこと、また研究代表者自身も健康を害してしまったため、海外への調査旅行もできず、木々康子氏の証言の録音もはかばかしく進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
木々康子氏の健康状態が回復してきたので、2019年度4月より、大学院生の協力を得て、木々氏の発言のデータ入力や、林家に遺る古文書の翻刻・データ入力・現代語訳などを始めている。院生の協力により、今年度はこうした作業を進めていきたい。 木々康子氏が蒐集した膨大な日本語・仏語・古文書の文献資料についても、分類・整理しデータ化を進めていきたい。また、5月末には国立西洋美術館の「林忠正展」に貸し出した1次史料が返却されるので、それらの詳細な調査・解読・位置づけ・分類整理・データ化を進めていきたい。 西洋美術館の展覧会では図録の作成がなかったので、これらの史資料の写真も掲載して資料・解説を本にまとめて刊行すべく研究を推進していきたい。 木々康子氏の集めた文献のみならず、最近の歴史学的な論考も広く参考にしたい。(例えばクリスチャン・ポラック、西野喜章編『維新とフランス―日仏学術交流の黎明』東京大学総合研究博物館特別展図録、2009。西堀昭『日本の近代化とグランド・ゼコール-黎明期の日仏交流』柘植書房新社、2008。アンドルー・ゴードン『日本の200年~徳川時代から現代まで』上下巻、みすず書房、2006。イアン・ブルマ『近代日本の誕生』ランダムハウス講談社、2006年。北澤憲昭『眼の神殿―「美術」受容史ノート 』ブリュッケ、2010。松浦寿輝『明治の表象空間』新潮社、2014。古田亮 『日本画とは何だったのか 近代日本画史論 』(角川選書) 2018。寺本敬子『パリ万国博覧会とジャポニスムの誕生』思文閣出版、2017。佐野真由子編『万国博覧会と人間の歴史』思文閣出版、2015。Arthor Ricard Bru, Erotic Japonisme :The Influence of Japanese Sexual Imagery on Western Art, Brill,2013.など)
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Causes of Carryover |
林忠正の活動の軌跡・19世紀末の日仏関係についての史資料を探すために、海外に調査に出かける予定でいたが、本研究の重要な基盤である木々康子氏の健康および研究代表者の入院などにより。2018年度の研究が予定より遅れてしまったため、海外調査の旅費・滞在費に使用予定だった予算が未使用のまま残ってしまった。 今後、可能であれば2019年度もしくは2020年度に海外調査に出かけるが、木々康子氏の収集した1次史料、2次資料の再検討・分類・データ化だけでもかなりの時間・手数(学生アルバイトの必要)があるので、場合によっては、木々康子邸および国内調査にウェイトをおいて、研究成果を刊行することを第一に考えたい。
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