2021 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the relationship between cinema and censorship in France under the occupation of the Nazi
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18K00494
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
永田 道弘 愛知大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (50513743)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フランス映画 / ナチ占領下 / 翻案 / 文芸映画 / 検閲 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、映画史的にみて非常に高い水準にあったナチ占領期のフランス映画に関して、この繁栄がもたらされたのが戦時下という表現規制がことさら強い状況下であった点に着目し、戦後のアメリカ合衆国でヘイズ・コードがハリウッドの黄金期を生み出したように、戦時下のフランスにおいても、製作環境の制限が映画の新しい形式を生み出す経緯となりえたのか否かを検証した。特に検閲規制を逃れる有力な手段といわれてきた文芸映画(文学作品を原作とする映画作品)を中心に、ナチス・ドイツとヴィシー政府のメディア統制、および私的検閲との関係性を明らかにしつつ、個々の作品の分析を行った。主に占領期にブームとなったバルザックやシムノンを原作とする映画作品を取り上げ、それぞれについて、翻案の過程において検閲の課す制約に対して監督や製作者らがどのように対処したのかを、原作の小説と映像作品の比較を通じて検証した。 分析の結果、歴史的に評価の定まった名作の翻案であろうと、大衆的な娯楽小説の翻案であろうと、公式・非公式の検閲による影響は広範囲に及んでおり、文学作品の翻案であれば、おのずと検閲を回避できるとする従来の説が実態を正しく捉えていないことが明らかとなった。さらに、いくつかのケースについては、表現規制への対応が単なる「検閲逃れ」以上の側面を持ち、物語のレベルでは検閲主体の保守的イデオロギーから巧みに距離をとりつつも、表現レベルでそれを相対化する視点が導入されていることも確認できた。 今後の展開としては、さらに多くの作品の分析を進めていく上で、対象の選定に関しても一定のジャンルに焦点をあてて、映画作家たちが公式・非公式の検閲の圧力に対してとった戦略の傾向を抽出し、それがそのジャンル特有の新しい映画表現が生まれる契機となりえたのかを考察していきたい。
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