2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00499
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
谷口 幸代 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 准教授 (50326162)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多和田葉子 / トポス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日独バイリンガル作家・多和田葉子の文学における複数文化的なトポスの諸相を明らかにすることを目的としている。 研究期間の初年度にあたる2018年度は、多和田文学で舞台設定が意味することを、文化的・歴史的・社会的な場としての可能性という観点から検討するにあたり、まず、基礎的な資料として、特定の場所を舞台として設定した作品と、不特定の場所を舞台とした作品とが、どのように創作されてきたのか、その展開を整理するところから着手した。ここには、作品の舞台の他、作品が翻訳された場所、また多和田が朗読やパフォーマンスで訪れる場所をも含めている。この調査過程で得られた成果の一端は、作品発表、演劇化の動向、朗読、講演、パフォーマンス等の多和田の活動をめぐる事蹟を年次ごとにまとめた年譜や著書目録の作成に生かした。 以上の作業と並行して、作品分析に進むための作業も開始した。具体的な対象作品として、まず、多和田の日本語作品の中から、現代のベルリンの通りや広場を歩く「わたし」を描いた小説『百年の散歩』を選び、舞台設定に関する調査を進めた。併せて、本作に関してすでに指摘のある、ヴァルター・ベンヤミンの〈遊歩者〉的存在として「わたし」を捉える見方の再検証にも入った。『パサージュ論』をはじめとするベンヤミンの著作やそれに関する研究文献を手掛かりとしながら、ベンヤミンの〈遊歩者〉とベルリンの街路を歩く「わたし」との比較検証を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記研究実績の概要に記載したように、文献調査の面では計画に従って進めることができたが、半面、実地調査の方は、十分な日程が確保できず実施に至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に着手した文献調査を継続するとともに、実地調査を行う方針である。『百年の散歩』の舞台として設定された実在の通りや広場に関して、それぞれの場所を遊歩する語り手が具体的にどこに行き、何を見て、どのような思索をめぐらせたのか、について調査を進める予定である。
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Causes of Carryover |
進捗状況報告欄に記載したように、2018年度は実地調査の実施に至らなかったこと、及び文献調査が図書館での調査に終始したことにより、収支状況に変更が生じた。これについては2019年度に執行を持ち越したい。
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