2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00499
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
谷口 幸代 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (50326162)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多和田葉子 / 動物たちのバベル / Kafka Kaikoku / 劇団らせん舘 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、戯曲作品を中心に調査分析を進めた。第一に東日本大震災と福島第一原発事故の問題を扱った諸作品の系譜から「動物たちのバベル」を分析した。同じ系譜の戯曲「夕陽の昇るとき~Still Fukushima」と比較対照しながら構造を分析した。被災地を舞台に、生き残った動物たちがそれぞれの種の文化に基づく対話を交わし、これからの社会をともに考えていくことの意味を考察した。演劇人としての多和田に初めて本格的に焦点をあてる書籍『多和田葉子の〈演劇〉を読む 切り拓かれる未踏の地平』を谷川道子氏との共編で刊行し、上記の考察を論文にまとめたものを発表した。 第二に日本の近代化と異文化接触の問題を扱った諸作品の系譜に連なる戯曲を分析した。ドイツ語戯曲DejimaからKafka Kaikoku, Ein Schmetterling fliegt uebers Meerへ続く展開と、その中におけるKafka Kaikokuの位置づけについて、日本独文学会のシンポジウム「言語を逍遥する詩人、多和田葉子の文学をめぐって」で発表した。 第三に多言語演劇集団の劇団らせん舘による多和田作品の演劇化のあり方を考察した。「舞台動物」上演を例に一人の人間の中の多言語性や多文化性を浮かび上がらせる様を分析し、谷川道子・山口裕之・小松原由理共編『多和田葉子/ハイナー・ミュラー 演劇表象の現場』に寄稿した。また、前掲の『多和田葉子の〈演劇〉を読む』では、劇団らせん舘へのインタビューで聞き手を務めた。 この他に前年度からの継続作業として、多和田文学におけるトポスの展開を調査・整理する作業に従事し、データを更新した。この調査過程で得られた成果をもとに、作品発表、演劇化の動向、朗読、講演、パフォーマンス等の多和田の活動をめぐる事蹟を年次ごとにまとめた年譜や著書目録を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で予定していた海外調査が実施できず、その点においては研究計画通りに進めることはできなかったが、オンラインで開催された学会や研究会等に参加し、貴重な示唆を得て、研究に活かすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
日本独文学会で発表した内容をもとに、Kafka Kaikokuにおける多言語、多文化性についてさらに分析を進め、多和田戯曲の演劇空間が複数文化的なトポスとして開かれていることを明らかにしたい。論文にまとめたものは同学会の研究叢書に投稿する。 同様の研究分析の視角から、他の戯曲作品へと研究対象を広げたい。候補として「夜ヒカル鶴の仮面」等を検討している。
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Causes of Carryover |
7に記したように海外調査の実施予定ができなかったことが理由で未使用額が生じた。新型コロナウイルスが終息し、調査が可能な状態になれば2021年度に実施し、計画を遂行する。
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