2023 Fiscal Year Research-status Report
近代の少女文芸メディア構築における世界性と地域性の力学をめぐる日露比較研究
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18K00508
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
溝渕 園子 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (40332861)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 少女雑誌 / 日露 / 比較 / 文芸メディア / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代の日本とロシアの少女雑誌を主たる対象として、各地域の文化や〈西洋〉の少女をめぐる文芸メディアといかに侵犯・融合しながら、今日のポップカルチャーの一翼を担う〈少女文化〉というカテゴリーへと至ったのか、その系譜を検証するものである。本年度は、コロナ禍等により遂行できなかった計画を、期間延長することによって巻き返す予定であった。 だが、コロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化による影響下で、ロシア等の海外での調査の実施が困難な状況が続いている。厳しい情勢の中日本で可能な限り研究を進め、スペインの国際学会にて研究成果の一部についてパネル発表を行った(Sonoko Mizobuchi, Damaso Ferreiro Posse, Li Lee, Yuko Matsuyama,“The Changing View of Foreigners in Japanese Literature: Exoticism throughout History”, III International Congress of The AEEAO, 9th June 2023, University of Salamanca.)欧米のアジア研究者らとの間で、世界の文芸メディアに関する情報の共有や意見の交換が実現でき、今後の研究にとって有意義な学会参加となった。 第70回原爆文学研究会ワークショップ(2023年12月10日、広島大学)では、川口隆行(司会)・一谷智子・溝渕園子・李文茹「翻訳がつなぐ経験―マーシャル、セミパラチンスク、広島」の中で、カザフスタンの作家ロラン・セイセンバエフの児童文学作品(露語)を取り上げた。 また、次世代人材育成の観点から、成果の一部について中国の山東科技大学にて「翻訳が拓く新たな文学の可能性」と題するオンライン講演を行い、教育効果の波及にも努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度の研究の主旨は、研究の総括と、欧米と東アジア双方の少女文芸メディアを連結し、次なる研究のフェーズへと道筋をつけることにあった。だが、新型コロナウィルス感染拡大に加えてロシアによるウクライナ侵攻による影響の長期化が重なり、研究活動に大幅な制限が生じた。前年度までに終えているはずの欧米での現地調査実施も延期されたため、日本で可能な限りの調査や研究を行うことに力を注いだが、十分な成果をあげるには限界があった。研究計画に及ぶマイナスの影響は甚大なものとなり、遅延を余儀なくされた。 そうした状況ではあったが、前年度と同様に、オンラインによるセミナーや研究会への参加を通して、研究の最新動向の把握や理論的枠組みの明確化などの研究の進展はあった。また、2023年度は、当初の計画通り、西欧諸国(スペイン)の国際学会でこれまでの成果の一部を発表したが、2024年度も学会において研究成果を公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の実施状況及び世界情勢をふまえると、引き続き、研究計画の若干の変更と、資料収集及びデータ整理の効率の向上が必須であると考える。2024年度は、①日露双方の雑誌との実証的な関連づけ及び研究成果の公表、②中国及び中央アジアの研究者との意見交換会の実施、③〈翻訳〉をめぐる国際セミナーの開催、を計画している。以上の3項目に関して、以下、それぞれに補足する。①に関して、有効なテクノロジーを活用したり、研究補助を依頼したりするなどの改善策を講じ、研究の迅速化・効率化を図る。②の中央アジアについては、ソ連文化の影響が色濃く、またシルクロードに代表される東西文化交流の結節地帯である。中国近隣のカザフスタン等を視野に取り込むことにより、ロシアと東アジア(日本・中国)を結ぶ回路を見出し、文芸市場メディアの動態を立体的に捉えることを目的とする。研究分担者として参画する基盤B「20世紀北東・中央アジアにおける難民と戦争捕虜の表象」(研究代表者:坪井秀人)を通じてすでに研究交流のあるカザフスタンの研究者にも協力を仰ぐ。さらに、研究分担者を務める基盤B「トランス/ナショナルな視座からの核・原爆の〈表現〉の研究」(研究代表者:松永京子)との連携を図る。③に関しては、2023年度の実績をふまえてスペインの研究者等の各関係者と共に準備を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルス感染状況の拡大及びロシアによるウクライナ侵攻の長期化による影響のため、計画していた海外調査を実施することができなかった。それにより、旅費及び関連経費が未使用となったことが大きな理由である。 2024年度は、コロナ禍と世界情勢に鑑みて、中国や中央アジアの研究者による研究協力、カザフスタンやドイツでの現地調査、データ整理の効率化に必要な研究補助、国際セミナーの開催等に必要な経費として使用する。
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