2019 Fiscal Year Research-status Report
日韓両国における中国短編白話小説の受容様相比較研究
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18K00510
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
金 永昊 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (60712031)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 白話小説 / 三言二拍 / 古今小説 / 都賀庭鐘 / 英草紙 / 夢決楚漢訟 / 漢楚軍談 |
Outline of Annual Research Achievements |
私は「夢の中で裁判した戦乱の人たち」において、中国における『新編五代史平話』「梁氏平話」、『三国志平話』、『古今小説』第三十一巻「鬧陰司司馬貌断獄」に至る系譜を整理した。そして、日本における「鬧陰司司馬貌断獄」の翻案作『英草紙』第五編「紀任重陰司に至り滞獄を断くる話」、そして韓国における影響作『夢決楚漢訟』について検討し、各作品における登場人物の訴訟及び判決内容についてまとめた。 次に、「韓国における短編白話小説の受容―『古今小説』第三十一巻「鬧陰司司馬貌断獄」と『夢決楚漢訟』―」(8月刊行予定)では、『夢決楚漢訟』の特質について、①「怨みを晴らすための転生、そして玉突き事故」、②「歴史認識・人物評価の違い」、③「知識伝授の物語‐韓国における仮名草子の時代」の三点に重点をおいて検討を行った。 そのうち、①についてのみ簡単に述べてみよう。原作の丁公は周瑜に転生するが、その転生の論理は、前世では項羽に仕え通すことができなかったため、来世でも孫権に仕え通すことができないということである。これではせっかく劉邦を訴えた意味はどこにあったのか、その怨みはどのようにして解消されたかに関しては疑問が残る。そこで『夢決楚漢訟』での判決は、丁公が劉邦に対して怨みを持つのは当然であることが認められ、来世では王朗に転生することになる。そして、曹操に仕えながら献帝を苦しめることによって、前世での劉邦に対する怨念を晴らすというふうに、怨みの復讐に焦点が当てられた判決が下される。しかし、このように丁公の転生先が王朗に変わった場合、周瑜に転生すべき人物を新たに設定しなければならなくなる。ここで『夢決楚漢訟』の作者は、周瑜と言えば、赤壁の戦いで曹操の軍を破るような活躍をしたことを一番先に思い浮かべたのか、韓信に対して怨みを持つレキ食其を設定することによって前世での怨みを晴らすようにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、韓国における中国短編白話小説の受容様相について広く研究しようと思っていたが、実際の研究では、次の2点において、「当初の計画以上に進展している」と判断することが出来る。 まず、『古今小説』第三十一巻「鬧陰司司馬貌断獄」の影響作『夢決楚漢訟』に絞って、非常に深く研究することが出来た。そして、2020年3月に研究ノート「夢の中で裁判した戦乱の人たち」を刊行し、8月には「韓国における短編白話小説の受容―『古今小説』第三十一巻「鬧陰司司馬貌断獄」と『夢決楚漢訟』―」が刊行予定である。そして、現在考えていることをまとめて、「冥界で行われた明快な判決」という題名で論文を執筆中である。 上記の研究は、主に戦乱における忠臣を主題にした物語である。そして、研究を遂行する過程で、『三綱行実図』の「忠臣篇」を購入し、検討を行ったところ、日韓で行われた系統整理についての先行研究には、不足していることがたくさんあることに気付いた。そこで、『三綱行実図』の「忠臣篇」についての研究を行い、論文として発表したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年は新型コロナの感染拡大に伴い、資料調査のための出張をすることがなかなか出来ず、学会での発表も難しい状態になっている。その代わり、現在のところ、文献読解を中心に行っており、新型コロナが収束すれば、研究成果を発表をしたいと考えている。そこで、次の2点を中心に研究をしたいと考えている。 まず、【現在までの進捗状況】で記した通り、『三綱行実図』についての系統の整理である。今回、私が手に入れたのは英祖改訳本系統の2本だが、これは現在のところ、日韓の学界では紹介されておらず、出来るだけ早急に公開したいと考えている。 次に、『夢決楚漢訟』を通して明らかになったのは、韓国における『今古奇観』の受容である。特に、私が注目したいのは、対馬藩の通詞であった中村庄次郎が『今古奇観』を朝鮮語訳したものがあり、その文学性について研究を行いたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大に伴い、資料調査が出来ず、学会も軒並みキャンセルとなった。収束すれば資料調査や学会発表を行う予定である。
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Research Products
(2 results)