2019 Fiscal Year Research-status Report
「人新世」という地球史の概念による現代文学の分析と評価-その展望と課題
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18K00511
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Research Institution | Josai International University |
Principal Investigator |
芳賀 浩一 城西国際大学, 国際人文学部, 准教授 (70647635)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 人新世 / Anthropocene / 環境批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年「人新世」(アントロポセン、the Anthropocene)の概念は、欧米を中心に賛否両論に分かれて盛んに議論されている。主に英語圏の書籍を中心にこの議論の流れや論点を抽出、整理する作業を行った。 2000年にポール・クルツェンが人新世(the Anthropocene)という言葉を広め、人間の力が地球の自然環境を左右する存在となったことをジオ・エンジニアリングの視点から指摘し、理系文系を問わず欧米の多くの研究者の関心を集めた。しかし、特に人文学の分野においては、2010年前後からこの初期の「人新世」概念に対する批判が起こり、近年このテーマについて出版されている論の多くはこの概念の問題点を指摘することに多くを費やしている。「人類」という枠組みが南北問題や国内格差といった政治性を伴う問題を無化してしまうというのが最も頻繁に指摘されることである。 しかし、批判する者が多いにも関わらず「人新世」が未だに学会や学術図書におけるテーマであり続けていることは、「人新世」概念が細分化され拡散する「環境」の分野にとっては貴重な理論的プラットフォームとなっていることを示している。 筆者は、2019年6月にアメリカ・カリフォルニア州・デービスで開催されたASLE(文学と環境学会)総会に参加して研究発表を行い、世界の人文環境学者の研究成果に触れ、交流することによって、「人新世」がまったく異なる研究対象をもつ研究者たちをつなぎ議論する場を提供していることを確認した。「人新世」は多くの問題を孕みつつも修正を重ね21世紀を生き延びている概念である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、文献調査の量は計画をやや下回る程度におわったものの、国際的な学術交流に関しては目標を達成したと言える。「ASLE(文学と環境学会総会・アメリカ)」や「近代文学三学会合同国際研究集会」等、国内外の学会に参加して発表を行い、人新世に関する議論の展開や地域によって異なる関心の度合いを確認することができた。資料の収集と分析においては、直接人新世をテーマとするものは25編程度に留まったが、動植物や気候変動といったやや周辺のテーマと人新世との関連についても調査と考察を進め、理解の幅を広げることができたと考える。 初年度は主に海外で出版された資料の収集と整理を中心に研究を進めたが、本年度は学会発表や研究会への参加にも力を入れ、人的交流による情報収集を行うことによって、出版・電子資料からだけでは感じることの難しい文化政治的側面について理解を深めるに至った。同時に、まだ十分とは言えないながら、学会発表や合評会を通して自らの研究成果の一端を情報発信することができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度となる2020年度は、人新世に関する資料の収集に漏れがないかを確認し残りの資料を集めると同時に、これまで収集した資料の中で重要視してこなかったものにも分析の目を向け、「人新世」概念の変遷の全体像に迫りたいと考えている。 新型コロナウィルスの流行に伴い多くの国際学会が中止される状況のため、海外の学会に参加することは難しいと考えられる。しかし、状況が許す場合は、年度後半に国内で開催される国際学会に参加し、これまでの研究成果の一部を発表したいと考えている。 さらにこの「人新世」概念が今日の人文学の研究の在り方にどのような変化をもたらしつつあるのかについて、文学研究の視点から論考にまとめ出版・公開することも計画している。科学と人文学の双方にまたがる「人新世」の概念の効果を検証するうえで、具体的な作品分析が欠かせないと考えている。幸い前年度に多くの学会に参加することが出来たので、最終年度は資料をまとめ、出版に向けて執筆を行うことに力を入れたい。
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Causes of Carryover |
学会に招待されて参加したり、発表に時間をとられ資料の購入がやや少なくなったりしため、予定していたほど使用額が増えなかった。しかし、本年度はテーマに関する重要な資料のほとんどを収集する予定のため、書籍購入額が大きく増えると考えている。
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