2020 Fiscal Year Research-status Report
The Thousand and One Nights from Manuscript to Print: Textual and Historical Studies
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18K00518
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
中道 静香 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 外来研究員 (30372634)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 千夜一夜 / アラビアンナイト / 写本 / アラビア語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、『千夜一夜/アラビアンナイト』のアラビア語手稿写本および初期刊本の内容の変遷や系譜を明らかにすることを目的としている。令和2年度は、前年度に引き続き、18世紀以降の1001夜で完結する写本(完全写本)のバリエーションについて調査を行った。 先行研究では、『千夜一夜』の「真正な」写本系統として、物語数・夜数の少ない初期のシリア系写本(15世紀頃)と一応の完成形といえる1001夜を含んだエジプト系写本(18~19世紀)の2種類が認められているが、このエジプト系写本群とは内容の異なる完全写本もいくつか存在する。 その一つがフランス国立図書館所蔵arabe 4678-4679であるが、これは19世紀初頭にアラブ人ミシェル・サッバーグがパリにおいて様々な写本を寄せ集めて作った写本であり、「偽写本」や「捏造写本」などと形容されてきた。また同じ人物による類似写本(サンクトペテルブルク・ロシア国立図書館所蔵ANS (arabic new series) 355/1-3)もあるが、こちらはほとんど研究対象として扱われていない。 本研究では、写本の真贋の点で問題を含むとされてきたこれらの写本も、『千夜一夜』写本編纂の歴史の一部とみなし、その内容の異同や典拠を明らかにするだけでなく、制作者であるサッバーグの経歴や人物像、そして彼が交流をもったヨーロッパ人東洋学者らとの関係をふまえ、なぜこのような写本が作られるに至ったかという背景を探った。 両写本の前半部分はほぼ同じ内容で、主にフランス国立図書館が所蔵していた複数の写本から取り入れられたこと、夜の区切りは同一ではないこと、また後半には異なる物語を配置していることが明らかになった。つまり、両写本は原本と複製の関係ではなく、別個の写本になるよう意図して作られたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に続き、令和2年度に計画していた海外調査(写本の実見等)も、国内外のコロナ発生状況に鑑み実施できなかったため、全体的な進捗状況は予定より遅れている。ただし、これまでに収集した資料と国内で入手できる資料のみで研究を進め、口頭発表を行った。論文発表も予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度も、海外での現地調査や資料収集が実施できない可能性があるため、写本調査に関しては画像データの取り寄せ等で対処しつつ、調査を継続する。なお令和2年度以降は、個々の写本の内容や本文に注目するだけでなく、写本の作り手、作られた経緯、所有者、売買といった、写本をとりまく歴史的状況に分析の重点を移し、その結果新しい視点や展望も生まれた。18世紀以降の『千夜一夜』写本の制作、収集、移動の経緯は、ヨーロッパの東洋学者らの写本収集熱とも大きく関わっており、ヨーロッパ各地の主要図書館が受け入れた彼らのコレクションに含まれる、他の多くのアラビア語写本との関係の中で捉え直す必要があると考えている。また、以前から準備している『千夜一夜』の文化語彙索引の完成を目指す。
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Causes of Carryover |
前年度の旅費として計上していた額が、新型コロナ感染拡大により渡航中止となり、そのまま次年度への繰り越しとなった。海外渡航できる状況になれば旅費として、不可能であれば写本の画像データや文献の購入に使用する。
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