2018 Fiscal Year Research-status Report
Empirical and theoretical investigations of the variation of conventional implicatures: With special reference to viewpoint and dependency
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18K00531
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
澤田 治 三重大学, 人文学部, 准教授 (40598083)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | conventional implicature / perspective / modality / expressives / dependency / emotion / attitude / embedding |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの目的は、慣習的推意(conventional implicature)(CI)の多様性について、とりわけ「視点」と「依存性」の観点から、実証的・理論的に考察し、CIの理論的特性を再検討し、新たなCIについての理論を考察することである。1年目にあたる今年度の具体的な研究内容・成果は以下の通りである。 [1] CIの意味を持つ感情表出的な「何も」と「とても」の否定的モダリティとの共起性・呼応関係について、語用論的機能の観点から考察し、研究の内容をLENLS 2018、名古屋学院大学、三重大学でのワークショップで発表した。 [2] CI用法(否定用法)の「もっと」が態度補文の中に埋め込まれた場合の意味解釈について考察し、論文としてまとめた。 [3] 非字義的に使われるモーラに基づく最小表現「X.Y.ZのXの字も」の意味(例:「サッカーのサの字も知らない」)について分析し、Linguistic Society of America 2019にてポスター発表を行い、論文としてまとめた。 [4] 少量を表す「ちょっと」、「少し」、「僅かに」の意味的な違いについて考察し、それらの違いは、CIのレベルにおけるスケールの粒状性(granularity)の違いであるということを様々な例・テストを用いて論証し、論文としてまとめた。 [5] 研究協力者の澤田淳氏とともに、推論用法の「NPのことだ」について考察し、推論用法の「NPのこと(だから)」と後続発話におけるモダリティ表現との呼応関係に関して、証拠性と因果関係の観点から考察し、CIレベルにおける因果性のメカニズムを提案した。研究の内容については、2018年5月にドイツで行われた国際ワークショップで発表を行った。また、「驚き」用法の「あの」の意味・機能およびCI的特性について形式意味論・語用論の観点から考察し、論文を執筆・投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクト全体としては、おおむね順調に進んでいると言える。本プロジェクトは、慣習的推意(CI)の多様性について、「依存性」と「視点」の観点から考察しているが、1年目は、とりわけ、依存的特性を持ったCIの性質に焦点を当てた。研究の進捗状況は以下の通りである。 [1]CI用法の「とても」と「何も」は、否定表現と常に共起しなければならないという点で、「まったく」や「一人も」などと同様、「否定極性項目」の一種であると考えることができるが、「とても」と「何も」は、否定的モダリティを通して、当該の命題に対する話者の否定的な態度を表出しているという点で、通常の否定極性項目と大きく異なる特性を持っているということが明らかになった。今後は、否定極性現象の理論にとって、CI用法の「とても」と「何も」は理論的に何を示唆しているのかと問題について考察したい。 [2]推論用法の「NPのことだ」について、研究協力者の澤田淳氏と共に、後続文におけるモダリティとの呼応関係について考察しているが、この現象を通して、CI表現の文レベルを越えた依存性のメカニズムが明らかになってきている。今後は、なぜ、「NPのことだ」の後続文は結果推量を表さなければならないのかという問題について、理論的に考察していきたい。 [3] CI表現の視点についての特性については、1年目は、CIとして振る舞う否定用法の「もっと」の埋め込み文中での視点のとり方について考察したが、今後は、さらに、様々な敬語やCI表現の埋め込み環境におけるふるまいについて考察したい。 [4] 研究を進めていく中で、スケールの粒状性と主観性・客観性の関係、モーラを基盤とした最小詞の依存的特性、字義的な意味と非字義的な意味の区別の問題等、関連現象やCIの多様性に関する新たな研究課題が見つかった。これらについても、引き続き、考察していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画、推進方策は、以下の通りである。 [1] 引き続き、慣習的推意の意味を持つ「とても」、「何も」の意味・機能について考察する。とりわけ、「とても」と「何も」が表す「命題に対する話者の態度」について談話構造・言語行為の観点から考察する。また、CI用法の「とても」、「何も」が否定極性理論一般にとってどのようなことを示唆しているのかという問題について考える。研究内容を論文としてまとめ、ジャーナルに投稿する。 [2] 引き続き、研究協力者の澤田淳氏と、推論用法の「のことだ」の依存的・因果的特性について考察する。とりわけ、なぜ推論用法の「NPのことだ(から)」の後には、必ず「だろう」等の結果推量のモダリティがくるのかという問題について、理論的に考察する。また推論用法の「のことだ」の歴史的発達についても考察する。研究内容を論文としてまとめ、ジャーナルに投稿することを目指す。 [3] CI表現が態度動詞の補文に埋め込まれた場合の、意味解釈・視点の取り方(話者指向的か主語指向的かの問題)について、敬語表現、感情表出表現等、様々なCI表現のデータを基に考察する。また、CIの埋め込み環境での解釈・振る舞いと、前提の埋め込み環境での解釈・振る舞いを比較し、両者の共通点と相違点についても検討する。分析の際は、大規模コーパスのデータを参照し、新たな言語事実の発掘も目指す。 [4] 昨年度行った少量を表す程度表現のバリエーションについて、粒状性の観点から考察し、「客観・主観」の区別とスケールの粒状性のレベルの関係について考察する。論文としてまとめ、ジャーナルに投稿する。 [5] 引き続き、非字義的用法のモーラに基づく最小詞の意味・機能、およびCI的特性について考察する。コーパス、アンケート調査等を用いて、モーラに基づく最小詞の生起環境について詳しく検討し、研究内容を、研究会等で発表することを目指す。
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Research Products
(13 results)