2020 Fiscal Year Research-status Report
Generative Grammatical Studies on Case and Morphology in Okinawan
Project/Area Number |
18K00539
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
吉本 靖 琉球大学, 国際地域創造学部, 教授 (70284940)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 範疇化辞 / 沖縄語 / 分散形態論 / 形容詞 / 複合語 / 格 |
Outline of Annual Research Achievements |
沖縄語の形容詞の形態統語構造を分散形態論の枠組みで分析し、「沖縄語の形態統語構造:分散形態論の立場から」という論文にまとめた。分散形態論では語根(Root)は範疇を持たず、語根に範疇化辞(categorizer)が併合することにより語の構造が決定されるという仮説が広く受け入れられている。多くの場合、範疇化辞は音形を持たないが、沖縄語には形容詞範疇化辞が音形を持っており、その異形態として-sと-sjがあることを本論文で論じた。この分析の基になったのは、沖縄語の形容詞の語根はsまたはsjで終わるという宮良(2000, 2019)の洞察である。宮良の分析によれば形容詞を前部要素として含む複合語中の前部要素は接頭辞であり、その接頭辞は形容詞語根末尾のsまたはsjが脱落した形である。「くふぁむち」(固い餅)という複合語を例に取ると、前部要素「くふぁ」は接頭辞であり、その接頭辞は形容詞語根「くふぁs」から末尾のsが脱落した形であるとされている。この分析は記述的には問題ないが、接頭辞になるとなぜ形容詞語根末尾のsまたはsjが脱落するのかという疑問が残る。一方、形容詞語根末尾のsまたはsjは形容詞範疇化辞であるという本論文の提案によれば、「くふぁむち」は「くふぁ」という語根が「むち」という語根と併合してできたものであり、形容詞に通常は現れる-sまたは-sjがこの例のような複合語には現れない事実に対して自然な説明が与えられる。 沖縄語の格に関する研究では、首里方言話者への調査により日本語の格配列と比較して次のような事実が判明した。(1)沖縄語には与格主語は存在しないとする先行研究があるが、所有を表す構文では日本語と同じく与格主語が許容される。ただし可能文では日本語と異なり与格主語が許容されない。(2)日本語に見られる多重主語構文については、焦点要素を含む場合は沖縄語でもそれが許容される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度の研究計画における課題である「沖縄語の述語の活用に関する分散形態論的研究」については一定の成果をあげたが、令和元年度の研究課題である「日本語と沖縄語の格比較:パラメータの観点から」については、研究発表を行う予定であった沖縄外国文学会の第35回大会が新型コロナウイルス感染拡大のため中止になったこともあり、発表を行うことができなかった。令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響で大学での授業が遠隔授業になったため、その対応に追われ研究の時間を思うようにとれなかったことも影響した。 新型コロナウイルスの感染者数が減少していた時期には沖縄語首里方言の母語話者を対象とした調査を計10回実施し、データの収集に関しては一定の成果を得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に発表予定であった「日本語と沖縄語の格比較:パラメータの観点から」については、令和3年度に発表する計画である。さらに「沖縄語の述語の活用に関する分散形態論研究」についても研究をさらに進展させ、その成果を発表していく。令和3年度も新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、学会発表はオンライン発表にならざるを得ない可能性もある。そのため、研究期間を延長して旅費として計上していた予算を令和4年度に執行することも検討していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、出席を予定していた学会が全て中止またはオンラインによる開催となったため、旅費の支出がゼロになった。 次年度使用額については参加を計画している学会の開催形式にもよるが、オンライン開催になった場合は物品費にまわし、対面開催になった場合は旅費の足しにするなど、柔軟に対応したい。
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Research Products
(1 results)