2018 Fiscal Year Research-status Report
ミニマリスト・プログラムの概念的基盤の科学哲学的研究:理想化、因果性、実在の分析
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18K00562
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
上田 雅信 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 名誉教授 (30133797)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 理想化 / 因果性 / 自然主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、生物言語学における因果性の性質の分析を行うのと同時に、理想化の性質を明らかにする試みを行った。まず、因果性の概念的な研究に関しては、本年度は、科学哲学での因果性についてのより詳細な議論を踏まえて生物言語学のメカニズムに見られる因果性の概念の性質を明らかにする試みを行った。この研究では、ガリレオの運動の科学と生物言語学における因果性の概念の間に類似性があることを主張した。次に、ガリレオが運動の科学において導入した方法を理想化という観点から論じたMcMullin (1985)の研究に基づいて生物言語学における理想化の性質を分析する試みを行った。この研究では、McMullinが論じている理想化のうち、数学的理想化を取り上げて、ガリレオの運動の科学における数学的理想化と生物言語学における数学的理想化の性質に類似性があることを主張した。さらに、生物言語学での理想化と因果性の性質を、認知主義的な語用論の理論である関連性理論での理想化と因果性の性質と比較するための基礎的な研究として談話標識の経験的な研究を行った。同様に、理想化と因果性の性質の研究に繋がる基礎的な研究として日本語と韓国語の目的語の格標識の違いを説明する他動性のパラメータの記述的な分析を行った。最後に、本研究では、当初、研究の概念的な枠組みとして科学史的な観点を主として用いていたが、これに加えて、自然主義についての哲学的な議論を概念的な枠組みとして生物言語語学における因果性、理想化、実在の性質の分析を行うことが重要であるとの認識に基づいて自然主義についての哲学的な議論を整理する試みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由は2つある。最初の理由は、生物言語学の初期の理論における因果性の分析をより正確に行うためには、まず因果性の概念の科学哲学的な研究の調査をさらに進めることが必要であることがわかり、そのため論文をまとめる作業が遅れていることである。2つ目の理由は、理想化、因果性、実在の概念を関連付けて体系的に論じるために必要な概念的な枠組みとして哲学における自然主義の議論を整理し、分析する必要があるためである。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、上記の理由を踏まえて、今後はこれまで用いていた17世紀野科学革命における近代科学の形成過程という科学史的な概念的な枠組みと同時に、科学革命以後に発展した自然主義の哲学的な議論を分析し、哲学における自然主義の様々立場を明確にしたうえで、生物言語学において仮定されている自然主義の性質を明確にする。その上でさらに、生物言語学における理想化、因果性、実在の概念がどのように相互に関連しているかにも注意を払いながらその概念的な性質を分析する。さらにこの概念的な枠組みを用いて、行動生物学など自然科学の他の分野や関連性理論など言語学の他の分野における理想化、因果性、実在の概念との比較を行う予定である。
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Causes of Carryover |
年度末の予算の残額が少額であったため、物品費、旅費、その他の経費として使用するための適切な用途がなかったことが理由です。次年度は、当初の予定より使用額が増えることが予想される人件費として使用することを計画しています。
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Research Products
(4 results)