2019 Fiscal Year Research-status Report
ミニマリスト・プログラムの概念的基盤の科学哲学的研究:理想化、因果性、実在の分析
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18K00562
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
上田 雅信 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 名誉教授 (30133797)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メカニズム / 生物言語学 / 初期理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続き、生物言語学における理想化、因果性、実在の概念がどのように相互に関連しあいながら言語理論を構成しているかを体系的に説明する概念的な枠組みとして用いるために、自然主義の考え方を整理した。しかし、この方法で生物言語学における理想化、因果性、実在を関連付けて体系的に説明するという目標を達成するのは難しいことが分かった。そのため、この試みを一時、中断して、科学哲学(生物学の哲学)の一部として行われている生命科学や認知科学の分野のメカニズムの研究の観点から生物言語学の最も初期の理論―特にChomsky(1957)で提案された初期理論と呼ばれる言語理論―の性質を分析することを試みた。この結果、初期理論は、生物学の哲学で明らかにされたメカニズムの性質を少なくとも潜在的に持つことが分かった。(この研究成果は、科学基礎論学会2020年度総会と講演会で口頭発表の予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大のため開催中止となった。)さらに、この研究を遂行するために、1950年代に生物言語学が形成された際に、その概念的枠組みを構成するために先行する知的伝統からどのような概念や方法論が取りこまれたかを明らかにする必要が生じた。そこで、上の研究と並行して、生物言語学の歴史的・科学哲学的背景の研究を行った。初期理論の歴史的・科学哲学的背景となるすくなくとも4つの知的伝統、すなわち論理実証主義、アメリカ構造言語学、計算の数学的理論と計算機科学、行動生物学(エソロジー)があることが分かり、これら4つの知的伝統と初期理論との間の概念や方法論の類縁性を示す特徴を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初想定していたように自然主義を分析の概念的枠組みとして使って、生物言語学における理想化と因果性と実在を関連付けて統一的に分析することは難しいことが分かったため、自然主義の研究を整理する作業を中断して、代わりにメカニズムの観点から分析を始めたためである。このため研究をまとめて論文にするのが遅れている。しかし、自然主義はメカニズムの研究を含むさらに大きな概念的枠組みとして捉え直すことが出来、その意味では今年前半の研究は、今年度の後半の研究の背景として改めて位置づけて今後論じることが出来ると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、メカニズムの観点から初期理論から現在のミニマリストの研究プログラムで提案されている理論までの理論の概念的性質及びその発展過程での概念的性質の変化を、理想化、因果性、実在というキー概念を用いて分析する。この過程で、生物学の哲学におけるメカニズムの研究で明らかになったメカニズムの一般的な特質が生物言語学の初期理論においてどの程度実現されているのか、またどのような理想化、因果性、実在の概念が想定されているのか、さらに、それが生物言語学の理論の進展とともにどのように変化しているのかを分析して明らかにする。この研究により、生物言語学の今後の発展の方向がどのようなものになるのかを、理想化、因果性、実在をキー概念として探ることも期待できる。さらに、生物言語学のメカニズムの事例研究から生物学の哲学への理論的貢献をすることも期待できる。
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Causes of Carryover |
当該年度の旅費の使用額が予定より若干少なかったことが理由である。次年度は物品費として使用する計画である。
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