2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00563
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
井筒 勝信 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (70322865)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井筒 美津子 藤女子大学, 文学部, 教授 (00438334)
小熊 猛 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (60311015)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 発話事象概念 / 語用論的標識 / 発話姿勢 / 発話行為操作 / 主観性 / 間主観性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の2年目に当たる当該年度は、本課題の目標の一つ、「発話事象概念」の言語により異なる構造、言語に共通する構造を明らかにすることを目指し、英語、ドイツ語、フランス語、アイヌ語、日本語、韓国語を主たる対象としてデータ収集並びに意味・機能分析を行うことで、以下に述べる六つの研究に従事した。第一に、昨年に引き続いて、(1)「アイヌ語の文末で用いられる語用論的標識」、(2)「ごく最近の経験を聞き手に報告し、話題として共有しようとする際に用いられやすい表現形式」、(3)「一身上の経験を打ち明ける際に用いられやすい表現形式」、(4)「英語、日本語、韓国語の未来の出来事を指示する表現(現在時制、証拠性、法などの表現形式)」についての研究を推し進めた。(1)は、当該年度にドイツで行われた国際学会で発表し、現在、その成果を国際的な学術論文集に掲載することを目指して準備を進めている。(2)及び(3)に関しては、更に記述と分析を進めて、整理した結果を論文としてまとめ、近く刊行される国際的な学術論集に掲載されることになった。(4)については、先行研究の成果に対して齎らし得る理論的な貢献について考察を深める努力を続け、学術雑誌もしくは学術論集への掲載を目指して準備を進めている。また、(5)「アイヌ語、英語、日本語、韓国語の話題・挿話転換に用いられる言語形式」並びに、(6)「英語、フランス語、日本語、アイヌ語の再帰的な内的独話の描写に用いられる表現形式」の分析に着手し、関連する発話事象概念のそれぞれの言語によって異なる構造と共通する構造の記述を試みた。これら二つの研究については、その成果を国際学会で発表することが決まっている。以上述べた一連の研究から、本研究課題の中心をなす発話事象概念の要素として、発話姿勢の標示、発話行為操作、 主観性・間主観性の整序といった問題を更に掘り下げることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年と同様、語用論的標識・不変化詞を中心とする発話時志向の表現形式の記述と分析に取り組んだが、英語、ドイツ語、フランス語を中心に扱う班にアイヌ語を加え、日本語、韓国語、アイヌ語を中心に扱う班に英語を加えて作業班の編成をし直したことで、作業の効率を高めることが出来、当該の分析を更に推し進めることが出来た。アイヌ語・日本語・韓国語などのOV言語の文末もしくは発話末で用いられる語用論的標識の意味・機能・形式には、談話機能並びに発話の概念化という点で互いに類似した動機付けが働いていると見られること、更に、VO言語である英語、OV言語とVO言語双方の特徴を示すドイツ語においても、類似した動機付けが語用論的標識の意味・機能・形式に働いているらしいことも少しずつ分かって来た。その一方で、主観性・間主観性の概念的な内容を始めとする意味・機能においても、当該標識が文や発話内で占める位置や標識間に見られる順序といった形式においても、現段階では十分に説明が出来ない点が明らかになって来た。また、「最近の経験を報告し、話題として共有する際」あるいは「一身上の経験を打ち明ける際」に用いられる表現形式の詳しい分析によって、日本語、韓国語、英語は互いに似通った談話語用論的な意味・機能を一定程度慣習化させながらも、当該の意味が時間的な概念化もしくは空間的な概念化という異なる発想に依拠していたり、あるいは指示詞などによって形作られる発話事象概念の空間的な構成が異なっていたりすることに起因して、実際に用いられやすい動詞表現、時制や相、語用論的標識に有意義な相違が見られることも分かって来た。これらによって本研究が明らかにすることを目指す、言語に共通する発話事象概念の構造と個々の言語に見られる多様性がコーパス・データや母語話者への聞き取り言語資料の詳細な分析を通して少しずつ示されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで2年間の研究において対象として来た言語並びに文法現象の記述及び分析によって、発話事象概念を構成する要素は、これまで想定して来た以上に多様であることが明らかになりつつある。従前、直示的表現として扱われて来た時制、指示詞、往来動詞のような要素と同様、文末詞、不変化詞、間投詞、談話標識などを含む広義の語用論的標識に加え、発話動詞、思考動詞、相、局面、法、証拠性など多様な形式がそれらの要素を表現する役割を担っていること、日本語・韓国語・アイヌ語・中国語などの東アジアの言語だけでなく、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語などの西ヨーロッパの言語においても、類似した役割を果たす形式が見られることが示されつつあることは注目に値する。それらは、従来の文法範疇や構文的な対応形式という観点からは互いに異なる事象として捉えられがちであったが、談話機能的対応表現という観点から整理することによって、それらの類同性と相違がより良く捉えられることが分かって来た。そこで、今後の研究においては、当初から予定していた通り、対象となるアジアとヨーロッパ双方の言語の範囲をモンゴル語・チべット語、バスク語、ウェールズ語などへと更に広げることに加えて、対象となる発話時志向の表現形式の範囲も更に拡大し、それらの記述と分析を通して発話事象概念に見られる諸側面の洗い出しを更に進める。これらの作業は、本研究が目標とする認知的言語類型論という立場からの発話事象概念の構造的理解を少なからず促すものと期待される。
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Causes of Carryover |
疫病流行に起因して、発表を予定していた学会が延期あるいは中止となってしまい、成果の発表のための海外渡航の実施ないしは計画自体が中止せざるを得なくなったこと、また年度末などに実施を検討していた調査や研究打ち合わせのための国内外旅行計画に著しい制限が掛かったことなどによって、それらに必要な諸経費として計上していた費目の使用が滞ったことが最大の理由である。この流行は、何時頃になれば、どのような形で収束するかの判断が難しく、成果発表のための渡航についても、調査や研究打ち合わせのための旅行についても、実現出来るようになる時期は予測が出来ないが、状況が改善するなどして学会が開催される運びとなった際に首尾よく成果を報告出来るよう準備を重ね、状況を注視しながら引き続きそれらの実施の時期を探る。
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Research Products
(3 results)