2018 Fiscal Year Research-status Report
Strategies in ambiguity resolution: a cross-linguistic perspective on the role of prosody
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18K00566
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小泉 有紀子 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (40551536)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 心理言語学 / 英語 / 日本語 / スペイン語 / 韻律 / 語用論 / 国際共同研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目標は、人がどのようなメカニズムで言語を理解し、産出しているのか、また、その際の方略には、言語によってどのような類似性や多様性があるのかを解明することである。構造が2通り考えられる文(構造的多義性)の処理における方略、特に文の韻律特性の役割に焦点をあてて検証することで、この解明に近づく。より具体的には、否定と副詞節(because節)の作用域の相互作用の処理に関するこれまでの英語での結果を踏まえて、スペイン語や日本語での同種の構造を考察し、その意味・韻律・情報構造の特性や、処理プロセスを検証する。また、L2英語話者の処理プロセスとの違いも検証し、英語教育への示唆を得ることも目指す。自己ペースでの黙読・発話産出・眼球運動測定などの手法を用いて、この意味的に複雑な作用域構造の理解においてどのような処理方略の言語普遍性や多様性が観察されるのかを探求するものである。 H30年度は、大きく2つの調査を行った。まず、日本語における否定と作用域の多義構造(例:タカシはマリコのように頭が良くない)について、母語話者を対象に知覚実験を行い、選好される構造を調査した。また、当該構文を文脈の中でどちらか一つの解釈になるようにして読み上げ実験も行った。 もう一つは、L2英語学習者(初級者)を対象に、英語の当該構文の読み実験を行った。実験文を初級者用にシンプルにし、また2つのセッションに分けて、韻律に関するトレーニングを施したが、学習者は依然として、当該構文の韻律・語用情報的な特性を利用して理解の助けとすることができないようであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、日本語とL2英語学習者を対象とした実験を進めることができ、概ね予定通りに進めることができている。
1. 日本語における否定と副詞類の作用域の関係:「真理子は 鈴木さんのように 頭が良くない」の例は、否定と形容詞句「鈴木さんのように」の作用域の相互作用により「鈴木さんも真理子も頭が良くない」という解釈と、「鈴木さんは頭がいいが真理子はそうではない」という解釈が可能である。母語話者の直感では、形容詞句「鈴木さんのように」の前や、述語「頭が良く」の前に韻律境界があるかどうかによって好まれる解釈が変わるとみられる。当初の予定通り、この構文について、日本語母語話者を対象に一般的な解釈の傾向を調べた。また、この構文を文脈の中で、どちらか一方の読みにしかならないようにし、読み上げ実験も行なった。
2. L2英語学習者の処理:第2言語学習者は、目標言語の節、文レベルでの韻律特性の情報をどのぐらい利用できるのだろうか調べるために、本年度は、実験文を初級者用にシンプルにし、また2つのセッションに分けて、韻律に関するトレーニングを施したものを、英語初級学習者を対象に調査した。結果、学習者は、当該構文の韻律・語用情報的な特性を利用して理解の助けとすることができないようであることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、日本語、L2英語、スペイン語の3つについて、さらに研究を進めたい。具体的には以下の通りである。 1. 日本語:昨年度得ることができた実験結果について詳しく分析する。昨年度は、ベースラインとなる解釈をアンケート形式という単純な方法で調べたが、より実験手法を精査して、詳細なデータを収集したい。また、解釈によって韻律特性が違うようであることが昨年度わかったが、日本語の韻律特性や情報構造について文献研究をすすめ、より詳細な分析をし、成果を学会等で発表したい。 2. L2英語:昨年度得ることができた英語学習者(初級レベル)の結果を、すでにわかっている英語母語話者、英語学習者(上級レベル)の結果との比較という観点からさらに詳しく分析する。また、今回、学習者の認知的負担を和らげ、また作用域構造や韻律情報に関する意識を高めるためのトレーニングを準備したが、効果はあげられなかった。トレーニングの内容をより精査することが必要であると考えられるので、先行研究を吟味しながら、よりよいトレーニングを立案し、再実験を行いたい。 3. スペイン語:スペイン語の否定とporque節の多義構造の処理について、前よりも詳細なデータを取ることができるよう実験構築を進める。まず、前回よりもデザインを改善し、直接法と接続法の違いを利用したより自然な文完成課題を構築する予定である。その後、英語と同様の自己ペース読み実験や、視線計測実験へと移行していきたい。同時に、スペイン語の否定の処理に関する文献の研究も進めたい。
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Causes of Carryover |
当初30年度中に予定していたスペイン語の研究成果の発表と打ち合わせの学会出張が、学会スケジュールの都合で翌年度の4月になったため、未使用額を翌年度の旅費の一部として充当したい。
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