2019 Fiscal Year Research-status Report
北西カフカース諸語とバルト・スラヴ語のアクセント法の対照研究
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18K00571
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柳沢 民雄 名古屋大学, 人文学研究科, 名誉教授 (80220185)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アクセント / 北西カフカース諸語 / バルト・スラヴ語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は北西カフカース諸語とバルト・スラヴ語のアクセント法を対照し、そこに見られる共通原理を解明することである。両語派の語アクセント法には類似の原理が働いていると仮定される。すなわち、語の形態素(あるいは音節)は優性と劣性という2つのアクセント属性をもつと仮定される。北西カフカース語においては強勢アクセントは語の最初の優性音節の最後の音節の上に置かれ、バルト・スラヴ祖語においてはアクセントは最初の優性形態素列の最初の形態素の上に置かれる。この2つの語派に見られるアクセント法の類似性は、これらの諸言語がかつて各形態素(あるいは各音節)に音調をもっていたことを仮定させる。本研究はこれら2つの語派のアクセント原理がピッチアクセントから由来したことを明らかにする。 令和元年の研究実績は以下のようである: (1)北西カフカース諸語について2つの言語の動詞アクセント法を調査した。ウビフ語の動詞アクセント法はDumezilのウビフ語資料とVogtの『ウビフ語辞典』(1963)、及びB.M. Bersirovの『ウビフ語・アドゥゲ語・ロシア語辞典』(2018)を用いて調査した。アブハズ語のについては、私の『分析的アブハズ語辞書』(2010)を用いて、各形態素のアクセント属性を調査した。アブハズ語の動詞アクセント法においても、名詞アクセント法と同じ原理が働いていることを確認することができた。 (2)バルト・スラヴ語については、スラヴ祖語の韻律特徴を最もよく保存しているセルビア・クロアチア語のアクセント法を調査した。方法としてはJ. Mateshichの『セルビア・クロアチア文章語の語アクセント』(1970)のアクセント分類方法を基に、アカデミーの23巻本である『セルビア・クロアチア語辞典』を参考にして語アクセントを調査した。基本語のアクセント法を分類し、現在これを辞書形式にまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画の通り北西カフカース諸語とバルト・スラヴ語のアクセント法を調査し、これをまとめる試みを継続している。北西カフカース諸語についてはアクセント資料として利用できる言語はウビフ語とアブハズ語だけであるので、これらの動詞複合体から各形態素のアクセント属性を抽出する作業を行っている。他方、スラヴ語については、R.ヤコブソンによる子音の「軟音性と硬音性」の相関と韻律的相関が関連するとの仮説を取り入れ、スラヴ諸語の韻律構造と音韻構造の関係を考慮する必要から、前年度に引き続きスラヴ語の中でも最も祖語の姿を現在まで残しているセルビア・クロアチア語のアクセント法をその方言も考慮して調査した。これは最も複雑な課題であり、現在のところ基本語に関してかなりまとまったアクセント資料を得ることができた。一方、バルト語については、昨年に行った古プロシア語のアクセント調査以外に、以前に作成したリトアニア語のアクセント資料をもとにソシュールの法則が働く条件を確定する作業を行った。また古プロシア語にソシュールの法則が働いたとのV. A. Dyboの学説を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
北西カフカース諸語については名詞と動詞のアクセント法をまとめて、北西カフカース祖語のアクセント法を再建する。これを再建した後、各形態素のアクセント属性が当初仮定していたアクセント原理によって働くかどうかを確認する。バルト・スラヴ語については、V. A. Dyboらによって今までに再建されたスラヴ祖語のアクセント法を参考にして、セルビア・クロアチア語とロシア語のアクセント法がスラヴ祖語からどのように発達してきたかを示す。これにより音調言語(スラヴ祖語、その直接的な反映としてのセルビア・クロアチア語)から強勢アクセント言語(ロシア語などの東スラヴ諸語)への発達の原理を呈示し、これと同じ原理が北西カフカース諸語においても働いていることを示したい。つまり、北西カフカース祖語(おそらく音調言語)からウビフ語とアブハズ語(強勢アクセント言語)のアクセントの発達は、スラヴ祖語から東スラヴ諸語へのアクセントの発達と平行する現象であることを示す計画である。また、こういったアクセント推移の中間段階にあると思われる、声調とストレスアクセントが相互に依存している東干語(旧ソ連邦内の中国語の一方言)のアクセントを今後の研究に加えて、言語類型論的にアクセント推移を考察する予定である。
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Causes of Carryover |
物品は関係資料である書籍購入が主である。旅費は当初外国(セルビア共和国とクロアチア共和国など)にて資料収集を予定していたが、新型コロナウイルスの発生によって計画が遂行できなかった。令和2年度の使用計画は前年度と変わりはない。関係資料である書籍購入と調査旅費を主な使用として計画している。
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Research Products
(1 results)