2019 Fiscal Year Research-status Report
Studies of the Sogdian vocabulary based on the Chinese originals
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18K00572
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 豊 京都大学, 文学研究科, 教授 (30191620)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ソグド語 / シルクロード / 仏典翻訳 / 東西交渉 / 中央アジア / 敦煌 / トルファン / セミレチエ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,前年度から引き続き漢訳仏典からソグド語訳された仏典の語彙を収集し,ソグド語と漢語の対訳語彙集を作成する作業を継続して行った.これと平行して,ロシアとドイツに保管されているソグド語仏典に関する研究論文を英語で発表した.これらは漢文仏典から翻訳されたものではないことを証明した.さらにソグド語仏典に特に頻出する冠詞について,原典と比較した上で用例の分析を行い英語論文として発表した.別に,モンゴルで発見された,9世紀初めに建立されたトルコ語,漢語,ソグド語の3言語併用のカラバルガスン碑文のうち,ソグド語版を校訂し日本語論文として発表した.その元になった英語版は東洋文庫のオンラインジャーナルで発表される予定で,現在校正を終えている.このソグド語版と対照しながら漢文版についても研究し,こちらは東洋史の研究者と共同で日本語論文として発表した. この間,5月には東方学会主催の国際東洋学者会議において,6世紀のソグド人の歴史および宗教文化に関する国際シンポジウムを主催した.フランス,中国,ドイツから各1名を招聘し,別に日本人3名が発表した.参加者は90名ほどであった.6世紀のソグド人の宗教の事情が明らかにされ,当時はまだソグド人の間で仏教が信仰されていなかったことが判明した.このシンポジウムの英語論文集を編集中で近く刊行される.11月には,北京で開催されたBeijing Forum(北京論壇)において,ソグド語の書記の養成について研究発表をおこなった.同じく11月には,東方学会の秋季大会において,上記のカラバルガスン碑文のソグド語版に記録された,東ウイグル可汗国とアッバース朝との関係に関する招待講演を行った.2020年の1月には,帝京大学文化財研究所において,9世紀セミレチエ(キルギスタン)におけるソグド人住民の宗教状況,特にキリスト教と仏教の関係に関する研究発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既発表のソグド語仏典について,ソグド語と対応する原典の漢字・漢語の対応を示す語彙表を順次作成している.British Libraryに保管されている,敦煌出土のソグド語仏典については概ね作業を終えることができている.パリのBibliotheque Nationale(フランス国立図書館)に保管されている敦煌出土仏典に関しては,何点かについては作業を終えることができた.ただしこの資料群には,原典を忠実に翻訳したものだけでなく翻案したり,意訳したソグド語仏典がかなり含まれていて,ソグド語と原典の漢語を対照する作業に大きな困難を伴い,必ずしも作業が予定していた通りになっていないところがあることも事実である. またソグド語やソグド人の歴史についての研究は日本において興味を持つ研究者や一般人が多く,研究成果を広く社会に発信するために,国際シンポジウムの開催を依頼されたり,学会での招待講演を引き受けたりした.これは昨年度の特殊事情であったが,当該シンポジウムの開催や一般向けの講演のための準備や,シンポジウムの後の英語論文集の編集にも時間を割くことになった.ただしこれはソグド人の言語,文化,歴史に関する研究成果を社会と共有するための営為であり,研究のまさに延長線上にあるものであって,その意義はきわめて大きかったと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本科学研究費の枠組みで行う研究の最後の年度にあたる.これまで続けてきている作業を継続して行うことに可能な限り専念したい.具体的にはパリのBibliotheque Nationale(フランス国立図書館)に保管されている,敦煌出土の仏典の語彙を漢文原典と漢字と対照する作業に一応のめどをつけ,漢訳仏典から翻訳された仏教ソグド語文献の辞書の試作品を完成させたいと考えている. そのためには,現在まで,個々の仏典ごとに整理してきた漢語とソグド語の対照語彙集を合体して一つにする必要がある.ソグド語研究者や,シルクロードの仏教に興味をもつ研究者が容易に利用できる有益な辞書・語彙集にするために,シルクロード地域で行われた言語の辞書や,翻訳文献の言語資料の語彙集で原典の語彙との対照を行っている先行事例を参考にする必要があるであろう.またそのような先行事例を作成した研究者から,積極的にアドバイスを得るようにすることも有効であると考えている.仏典については日本では重厚な研究の蓄積があり,それらを参考にすることもできる. さらに可能であれば,出来上がった試作品を利用して,現在作成中のソグド語の文法書の語彙の部分を充実させた上で,この文法書を完成させることも計画している.
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Causes of Carryover |
差額はごく少額である.これは海外出張した際,先方の接待で食費等の支出の必要がなくなったためである.従って特に助成金の使用計画を変更する必要はないと考える.
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Research Products
(11 results)