2021 Fiscal Year Research-status Report
節の切り詰め効果に関する研究:局所性制約に基づく説明の発展・深化に向けて
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18K00578
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
那須 紀夫 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00347519)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 切り詰め効果 / 補文標識 / ラベル付け / 素性共有 / Criterion |
Outline of Annual Research Achievements |
節の切り詰め効果に見られるこのような言語差をもたらす文法的要因を特定することを目標として掲げた。切り詰め効果の現れ方は言語によって異なる。例えば日本語は英語に比べて補文標識の分化の度合いが高く、それと連動して節の切り詰め効果にもより豊富なバリエーションが見られる。この違いを説明するために、言語によって補文標識の分裂が起こる文法部門が異なるという仮説を立て、その検証を行った。 英語のように補文標識の分化が乏しい言語では補文標識の分裂は統語部門で起こる。これは補文標識の分裂が統語的な制約を受けることを意味する。本研究では、句のラベル付けに関わる制約がそれに相当することを示した。統語部門で補文標識の分裂が起こるには、Rizzi らが Criterion と呼んでいる指定部ー主要部間の素性共有関係が成立している必要がある。近年のラベル理論 (Chomsky 2013, 2015)では、句範疇同士の併合によってできた統語体のラベル付けがこの共有素性によって達成されることが提案されている。これを援用し、ラベル付けに貢献する素性を持つ補文標識のみが単独の主要部として分化できるという制約を提案した。 一方、日本語のような言語では補文標識は既に分裂した状態でレキシコンに収められており、これらが個々に統語部門に投入される。そのため、英語に見られるような統語的制約を受けないことが予想される。これは、補文標識主要部はラベル付けに貢献する素性を持っていても持っていなくてもよく、さらにその素性がラベル付けに用いられなくても構わないことを意味する。言い換えると、句範疇同士の併合によって作られる統語体は共有素性によってラベル付けされるわけではないことになる。本研究では、この観察がSaito (2016) らが提案する反ラベル付け効果を支持する傍証になることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
節の切り詰め効果に見られる言語差をもたらす要因を、補文標識の分裂が起こる文法部門の違いに還元するという解決案の妥当性を検証するという当初の目的を十分に達成することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では節の切り詰め効果に見られる言語差を補文標識の分裂が起こる文法部門の違いに関連させる可能性を探ってきた。その結果、統語部門で分裂が起こる言語ではラベル付けに貢献する素性を持つ補文標識のみが分裂の対象となるという結論を得た。一方、レキシコンで分化が起こっている言語はそのような制約を受けることがない。今年度の研究ではこの結果を論文にまとめて発表するとともに、過年度に分析した文副詞の分布に見られる日英差がこのメカニズムによってとらえることができるか否かを考察することで、当該メカニズムの汎用性を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症によって出席を予定していた学会がオンライン開催となり、移動にかかる出費が生じなかったため、残金が発生した。2022年度には研究成果をまとめた論文を専門誌に投稿するにあたって英文校正を委託する。その謝金が発生する予定である。
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