2019 Fiscal Year Research-status Report
「系列別語彙」の拡充とそれを使用した琉球語の歴史言語学的考察
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18K00588
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
松森 晶子 日本女子大学, 文学部, 教授 (20239130)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 琉球語 / 歴史言語学 / アクセント / 系列別語彙 / 沖縄本島 / 通時的研究 / データベース |
Outline of Annual Research Achievements |
琉球語の歴史言語学的考察のために役立つアクセント別語彙集の作成を目指し、昨年度は主として、初年度に沖縄本島で収集した音声データのデータベース化に焦点を当てた作業を行った。 初年度は、琉球祖語までさかのぼれる3つの型の区別を保っていると考えられる沖縄本島中部の金武(きん)方言において3回の調査を実施し、約2千語の名詞のアクセントのデータを収集することができた。昨年度はその音声データを、(1)各語の単語単独言い切りの形、(2)各語に1拍の助詞を付けた形、(3)各語に2拍の助詞を付けた形、という3種類の形式に分類して切り取って保存、それらをファイルに収めることができた。当初に予測していた通り、金武方言の名詞の体系には、祖語において存在していたと想定される3種類のアクセント型の区別が、現代に至るまで明瞭に保たれていることが、そのデータベース化の作業過程において明らかになった。 今後、同様な調査を動詞、形容詞等においても行っていく予定である。琉球祖語における動詞・形容詞には少なくとも2種類の型の区別が存在していたことが想定されているが、その仮説の妥当性を、今後の調査、およびデータベース化によって確認していきたい。さらに、名詞・動詞・形容詞についてデータベース化が終了した時点で、この音声データを広く琉球語研究者が参照できるような形で、公表する予定である。 また昨年度は、これまで北琉球の奄美大島においてみずからが収集してきた音声データの分析結果に基づいて、先行研究のデータもあわせて使用しながら、実際に琉球語の歴史言語学的考察を行い、その成果を日本語学会の学会誌『日本語の研究』に公表することができた。松森晶子(2019)「奄美大島南部・瀬戸内町における重音節発生の歴史的経緯―狭母音化との相対年代から考える―」(『日本語の研究』 第15巻1号:1-17)がそれにあたる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は、個人的事情により現地調査を実施することができなかった。そのため昨年度は、主として研究室において行うことが可能な作業と研究に専念した。そのおかげで、初年度に収集したデータのデータベース化については、比較的順調に進めることができたと思われる。 しかしながら、当初の研究計画では本研究の事業期間の2年目は(1)宮古諸島において同様な調査を行う、(2)沖縄本島金武方言における動詞・形容詞のアクセント調査を行う、ということが計画されていた。それらを計画通りに進捗させることができなかった。 そのため、研究全体の進捗状況としては「やや遅れている」とせざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は調査に専念する研究計画をたてていたが、現時点ではコロナウィルスの影響下にあって、沖縄・奄美地域への出張を自粛せざるをえない事態へと追い込まれている。 したがってしばらくの期間は、これまで本研究においてデータベース化を行った金武方言のデータを使用して歴史言語学的考察を行い、その成果を論文の形で公表していく方向へと研究計画を変更せざるをえない。 一方、これまで収集したデータのデータベース化については、それをさらに推し進め、今年度中に公表できる段階にまで持っていく予定である。 さらに『沖縄語辞典』を代表とするこれまで刊行された琉球諸語の辞書における記述を参照しながら、それらに基づいて本研究の調査語彙をさらに拡充し、それにより初年度に調査した際に作成・使用した調査票を再検討することにも焦点を当て、研究を続行させていきたい。 沖縄・奄美地域での調査が可能になり次第、そのあらたな調査票によって調査が再開できるよう、今年度は着実に準備を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度は個人的事情により調査ができなかったために、次年度への繰り越し金が生じた。今年度は、コロナの問題が解消し次第、調査を再開する予定である。 また初年度に収集したデータのデータベース化を本格化するため、そのための備品を補充する予定である。
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