2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00597
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Research Institution | Osaka Health Science University |
Principal Investigator |
松井 理直 大阪保健医療大学, 大阪保健医療大学 保健医療学部, 教授 (00273714)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本語音声 / 分節音 / 時間特性 / 拗音 / アクセント変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,日本語分節音の時間特性について,生理学的研究とデータベースを用いた分析を行った.まず,発声すなわち有声/無声の違いに関わる時間特性として VOT の特性を精密に調査した.先行研究でも指摘されている通り,日本語は無声の VOT に関しては比較的安定した性質を持っているが,有声音の VOT については様々な特性を示す.この有声の VOT 特性について,調音位置・調音方法との関わりも含め調査を行った結果,喉頭制御を行うタイミングポイントとして2種類の位置が考えられることが分かった.この特性は,Articulatory Phonology や C/D モデルといった連続量を扱いうる理論でも,うまく説明できるタイミングポイントである. また前年度の研究に引き続き,日本語分節音における重要な特性の1つでもある直音と拗音の性質についても,時間制御の観点から検討を行った.日本語の拗音は,(a) 直音子音が硬口蓋化,(b) 子音+j の子音連鎖,(c) 子音+前舌狭母音+主母音、等の可能性が考えられる.エレクトロパラトグラフィを用いた生理実験と音響分析の結果,前年度に研究を行った歯茎音のみならず,他の調音位置における拗音についても,(a) および (b) の特性に近い性質を持つことが示された.この点については,さらに検討の余地があるため,2020 年度も引き続き調査を行う. こうした分節音の特徴と共に,日本語のアクセントに関する調査も並行して開始した.本年度は,Foreign Accent Syndrome (FAS) と呼ばれる言語障害に注目し,FAS がどのようなアクセント変異をもたらすのかを,ケーススタディとして調査した.その結果,FAS のアクセント変異は特に平板アクセント語に集中して起こり,その変異は標準的な日本語アクセント規則に従うことが多いことが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はほぼ予定通り進んでいる.特に,本年度見いだした外国語様アクセント症候群 (Foreign Accent Syndrome; FAS) と呼ばれる障害は興味深いものである.日本では FAS は症例報告数の少ない障害であり,さらにその多くは左中心前回を主たる病巣とする左前頭葉病変の報告が多くを占める.このタイプの FAS は基本的に非流暢性発語や発語失行も随伴しており,純粋に FAS と呼べるのか議論の余地がある.一方,我々の見いだした FAS は,左上側頭回に病巣があり,流暢性は発語にほとんど問題がなく,ほぼ純粋に FAS の障害のみを引き起こしている症例であった.ケーススタディではあるが,この症例では起伏式アクセントについては誤りが少なく,無アクセント語が有アクセント語に変異するというパターンが多くを占めること,またその時のアクセント核の位置が多くの場合に default のアクセント位置 (後部から 2 モーラないし 3 モーラ目) に生じることが明らかとなった.また,病巣は左上側頭回にほぼ位置しており,このことは,FAS を診断する際に,非流暢性や発語失行を伴う前方病変型 FAS とほぼ純粋にプロソディのみに影響が現れる後方病変型 FAS を峻別しなければならない可能性が示す.この発見は,日本における言語聴覚士の臨床現場にも一定の貢献をするものである. 一方,本年度に開始する予定であった,呼気流量の調整に関する研究は,コロナウィルスの騒動もあり,実験機器製造メーカーが一時的に生産を中止してしまったため,予備研究を行うことができなかった.これについては,メーカーと連絡を取り合っており,本年度注に問題を解決する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,分節音の時間制御に関する実験を,両唇音・軟口蓋音にまで広げると共に,喉頭制御と呼気流量との関係についても研究を開始する予定である.後者の研究については,実験機器の購入が必要であるが,昨年末から現在に至るまで,メーカー側との調整がついていない.この点については,メーカー側と実験機器の購入について交渉を続ける予定である.また,アクセントの脳内機序についても,さらに新しい角度から検討を進める予定にしている.
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Causes of Carryover |
2019年度に購入予定であった呼気流量を計測する生理実験機器が,コロナウィルスの関係で,製造元から購入できなくなり,現在,メーカーと購入の交渉を続けている.2020年度に行う研究の一部を2019年度に回したため,研究の進捗状況という点では補完できた形ではあるが,2019年度中に予備実験が行えなかった点は残念である.本年度こそ,生理実験機器の購入を行う予定にしている.
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