2018 Fiscal Year Research-status Report
中世漢字片仮名交じり文における重点を中心とした書記史的研究
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18K00626
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
村井 宏栄 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 講師 (40610770)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本語書記史 / 漢字片仮名交じり文 / 片仮名文 / 重点 / 踊り字 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は中世漢字片仮名交じり文献を対象に、表記種連続の類型とその個別的特徴を分析することで、12~15世紀の漢字仮名交じり文の日本語書記システムを明らかにしようとするものである。具体的には、中世漢字片仮名交じり文文献における重点(例「コヽロ」における「ヽ」)を取り上げて実態調査を行い、諸要素間の連関について分析と考察を進める。かかる研究目標の下、計画初年度の平成31年度には、用例の採集整理を進めるとともに以下の成果発表を行った。 まず、中世仏教者の一人として親鸞関係遺文を分析対象とし、前年度に『西方指南抄』の重点について行った報告と併せ、同書の書記方針の傾向が他の漢字片仮名交じり文献にも敷衍できることを示し、親鸞による重点書記の全体像について概要をとらえた。結果、書記方針がかなり厳密に統一されており、重点・同字反復による分節機能が非常に高いことを示した(『言語と表現―研究論集―』16)。 さらに、13世紀の片仮名文および仮名文の比較という視点から、大福光寺本および前田家本『方丈記』の検討を行った(第119回国語語彙史研究会口頭発表)。重点・同字反復による分節機能は大福光寺本よりも前田家本の方が高く、親鸞資料はさらにこれら二本を上回る。すなわち、親鸞の重点用法を『方丈記』二本と比較するとき、片仮名文で記された大福光寺本ではなく、仮名文で記された前田家本の方に近いことは注目すべきである。大福光寺本は「オ―ヲ」の仮名遣いにおいてほぼ「ヲ」に統一されており、「~を+動詞」は、結果的に「~ヲヽ…」という表記連続となる。重点用法はひとり補助符号の体系性のみで説明できるものではなく、漢字片仮名交じり文を構成する諸要素内で考究する必要性が再浮上した。 日本語書記史において、重点を使用するという方法は各種表記体に共通しており、この方法に注目することで日本語書記史の通時的な定位が可能となりうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は当初の予定通り、漢字片仮名交じり文による親鸞関係資料における重点の使用状況の分析を行い、明らかになった問題点とともに論文発表を行った。さらに当初の予定よりも早い段階であったが、大福光寺本および前田本『方丈記』の重点について分析を行い、口頭発表を行うことができた。 平成30年度中の発表論文は1本、口頭発表は1件に留まったが、13世紀の片仮名文資料の代表例としても取り上げられることのある大福光寺本『方丈記』について、仮名遣いの問題から前田本『方丈記』との比較・観察を通じ、今後明らかにしていくべき課題のあぶり出すことができた。基盤的な枠組みへの自覚的整理の進捗と位置付け得る。さらに、親鸞関係資料における重点は全数的調査をほぼ終えたことで、一資料内に留まらない特定個人の書記傾向を明確に示すことができた。基礎データの充実という意味において有意義であったと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、より幅広いジャンルにおける中世漢字片仮名交じり文の表記実態を収集するとともに、その分析作業を進める。次年度は特に平成30年度に口頭発表を行った大福光寺本および前田本『方丈記』について、さらに漢字と仮名(片仮名)の割合が重点の使用および仮名遣いと相関するか否かという観点も用いて用例収集と分析に努めていく。成果は学会・研究会等で口頭発表を行い、速やかに論文化に取り組む。口頭発表の場における質疑応答はもとより、他の研究者との研究交流や意見交換などによっても議論を深め、研究計画を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
申請時に予定していた学会出張が諸事情によって参加できなくなったことによって、次年度使用額が生じた。所属大学の研究室において以前から使用しているデスクトップ型パソコンの買い換え等を次年度に計画しているため、これらに充当していく予定である。
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Research Products
(2 results)