2020 Fiscal Year Research-status Report
極小主義プログラムの新たな展開を踏まえた論理形式表示の研究
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18K00636
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
金子 義明 東北大学, 文学研究科, 教授 (80161181)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 極小主義プログラム / 論理形式 / 時制解釈 / 付加詞 / 付加操作 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、極小主義プログラムの最新の枠組みにおいて、概念・意図システムへの入力としての論理形式(Logical Form=LF)表示の妥当な形式とその解釈を解明することを目的としている。今年度は、統語対象のラベル付けと付加構造の形成操作、論理形式における解釈機構の研究を行った。ラベル付けと付加操作の問題は,Bode(2020) Casting a Minimalist Eye on Adjunctsを中心として行った。ラベル付けはChomsky(2013)およびChomsky(2015)の提案が基盤となるが、Chomskyの分析の最大の問題は、提案されているラベル付けに関するアルゴリズムが規定にとどまっている点である。これに対してBodeの提案は、自由にレベル付けを行い、不適切なラベル付けは解釈の不整合として排除するものであり、むしろChomsky(1995)のBare Phrase Structureの精神に立ち返ったように思われる。Bodeの提案は、主要部移動の分析等に関して再考の余地があるものの、その方向性は、極小主義の根本精神に合致するものであり、本研究の進展にとって重要な示唆を含むものとして評価することができる。論理形式における解釈機構の問題に関しては、その研究成果を金子(2021)「時の付加詞節における「時制調和」現象の「事象時調和」現象としての再定義」として発表した。同論文では、時の副詞節と,それが修飾する主節との間の時制の共起制限に関して、従来は形態統語論上の制約として捉えられてきたのに対して、両節の事象時が、時制解釈の起点となる評価時を同定する時(主節では発話時)との時間関係(以前・同時・以後)の点で同じ関係もつことを要求する解釈上の制約であり、論理形式で捉えられるべき制約であることを示した。これらに加えて、文献、及び研究情報の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は4年間の研究の3年目であり、展開的研究年度であった。その研究成果をまとめた金子(2021)「時の付加詞節における「時制調和」現象の「事象時調和」現象としての再定義」では、金子(2019)の提案を理論的観点から見直し、理論的により精緻化したものである。金子(2019)の分析は、従来の形態統語論的な時制の同一性に基づく分析の問題点を克服するものとして、記述的には妥当なものであった。しかし、付加詞節が現在時制である場合と過去時制である場合にそれぞれ制約が必要である点で統一的扱いが不十分であった。金子(2021)では、時制調和現象に対して形態統語論的要因に一切言及することなく、時制解釈の結果から得られる概念にのみ言及する制約によって、時の付加詞節の全ての時制形式に対して統一的説明を与えている。すなわち、時制の調和現象に対して、統語的分析に代わって、時制の意味解釈の観点からの説明がより妥当であることを明らかにしている。さらに、金子(2021)では、時の付加詞節が主節を修飾する場合、付加詞節の時制の評価時を同定するのは、主節のさらに上位に存在する遂行句(performative phrase)の主要部であることを明らかにしている。このことは、主節の最上位に遂行句を設定する分析にさらに支持を与えるものである。。統語対象のラベル付けと付加詞表現の併合形式に関して新たな提案を行っているBode(2020)において、統語部門は純粋に併合操作のみを行い、併合の結果得られる統語対象のラベル付けを含めて、従来統語的分析を与えられた現象に対して解釈によって説明するモデルが提案されている。金子(2021)の成果は、このBodeの提案に対して時制に関わる論理形式の解釈の観点から支持を与えるものであり、現在本研究で推進中の研究が妥当な方向性を有していることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、4年間の研究であり、次年度は最終年度であることを踏まえて、適切なラベル付け、付加構造の解釈の解明、及び遂行節の詳細な構造の解明について総括的研究を行う。ラベル付けと付加構造の解釈の解明に関しては、Chomsky(2019) UCLA Lecturesの新たな展開を踏まえた研究を行う。Chomskyは、普遍文法の唯一の操作である併合操作Mergeの適用に関して、統語対象に適用されるとする従来の考え方を破棄し,当該の統語対象を含む作業空間(workspace)を適用対象とする提案がなされている。この新たな提案が論理形式にもたらす帰結を考察する。併合操作は、一般には集合併合(set merge)と考えられているが、Chomsky(2019)では、集合併合に加えて、付加に関して依然として対併合(pair merge)が保持されている。集合併合のみを認めるBode(2020)の分析の簡潔性に鑑みて、このChomskyの主張の妥当性を批判的に検討する。また、ChomskyやBodeの主張と対立し、多重支配の構造の存在を積極的に主張するCitko and Gracanin-Yuksek (2021) Merge: Binarity in (Multidominant) Syntaxの分析を検討し、ラベル付けと付加構造の構築に関する考察を精緻化する。遂行句に関しては、Tang (2020) Cartograhic syntax of performative projections: evidence from Cantonese等を検討し、遂行句の存在に関する理論的・経験的基盤をさらに強化する。個別現象の研究としては、金子(2021)の分析を、付加詞節が定形補部節及び不定詞節に生起する場合に拡張する。以上に加えて、文献収集、及び研究情報の拡充整備を行う。
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Research Products
(1 results)