2019 Fiscal Year Research-status Report
関連性理論に基づいたオクシモロンの解釈に関する認知的研究
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18K00638
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
井門 亮 群馬大学, 社会情報学部, 准教授 (90334086)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 関連性理論 / オクシモロン / アドホック概念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日・英語のオクシモロンの解釈の仕組みについて、関連性理論で提案されている「アドホック概念構築」という表意の復元にかかわる語彙解釈の推論プロセスを中心に分析を試みることにある。この研究目的を達成するため、2019年度は、研究実施計画に沿って、(1)字義通りに捉えると矛盾した意味となるオクシモロンが、聞き手によっていかに解釈されているのだろうか。オクシモロンで用いられた語の解釈には、アドホック概念構築という推論作業がどのようにかかわっているのだろうか、(2)すべてのオクシモロンの解釈がアドホック概念構築の観点から説明できるのだろうか。または自由拡充や飽和といった別の推論プロセスや推意が関係する可能性はあるのだろうか、という2点について検討し論文としてまとめた。 上記の(1)については、オクシモロンの解釈も通常の発話解釈と同様に、関連性理論に基づく解釈手順に沿って関連性のある解釈を求めて推論が行われているということを明らかにした。つまり聞き手は、最適の関連性を求めて話し手が伝達しようと意図したオクシモロンの意味を、無意識的・自動的に、そして瞬時に推論しているのである。その結果導かれるオクシモロンの解釈は、そこで用いられた語の記号化された意味を推論によってアドホック概念として発展させた表意と捉えることができる。(2)については、特に「近い/遠い」「大きい/小さい」といった段階的な形容詞が含まれる一部のオクシモロンに関しては、解釈の際にアドホック概念構築ではなく、飽和が行われる可能性があることを指摘した。この分析結果から、オクシモロンの解釈は、アドホック概念構築を通して用いられた語自体が「発展」する場合と、飽和によってその語に何らかの要素が補われて「発展」する場合の2つが考えられるとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、オクシモロンの解釈プロセスについて、次の4点を検討することにある。(1)字義通りに捉えると矛盾した意味となるオクシモロンが、聞き手によっていかに解釈されているのだろうか。オクシモロンで用いられた語の解釈には、アドホック概念構築という推論作業がどのようにかかわっているのだろうか。(2)文レベルでのオクシモロンの解釈にもアドホック概念構築がかかわっているのだろうか。または自由拡充といった別の推論プロセスや、推意レベルでの解釈が関係する可能性はあるのだろうか。(3)オクシモロンと深いかかわりのある逆説法や諺との関係について、関連性理論の観点からどのように説明ができるだろうか。(4)オクシモロンの修辞的効果は関連性理論の観点からどのように説明できるだろうか。 2019年度はこれらの研究目的のうち(1)と(2)を中心に検討し、オクシモロンの解釈も通常の発話解釈と同様に、関連性理論に基づく解釈手順に沿って関連性のある解釈を求めて推論が行われていることを示した。またその解釈プロセスには、アドホック概念構築を通してオクシモロンで用いられた語自体が「発展」する場合と、飽和によってその語に何らかの要素が補われて「発展」する場合の2つが考えられるということを明らかにした。 (2)については、文レベルでのオクシモロンの解釈プロセスの検討にまでは至らなかったが、全体的に見れば(1)と(2)の研究目的はほぼ達成できたと考えられることから、現在までの進捗状況は、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度に行った分析結果に基づき、オクシモロンと密接にかかわる逆説法や諺との関係について比較・検討を行う。「負けるが勝ち」「急がば回れ」や “That lie is true.”のような逆説法はオクシモロンと近い関係にあり、すでに諺として定着しているものも多い。そういった定着したオクシモロンをArii (1990) は特に“dead oxymoron”と呼んでいるが、あるオクシモロンが諺などとして定着しているならば、そこで用いられた語や句全体の意味も固定されているのではないだろうか。そうするとdead oxymoronの解釈についても、2019年度に検討したような表意解釈のための推論プロセスに基づいた分析が可能か、またはすでに定着しているため、記号化された意味として捉えるべきかなど検討していく。その際には、井門 (2012) や岡田・井門 (2014) で明らかにした、定着したイディオムの解釈に関する研究成果も踏まえて分析を行いたいと考えている。 また2019年度の分析では、オクシモロンと密接な関係にある逆説法については特に言及しなかったが、野内 (2002:105) によると、逆説法は「語と語という小さな単位ではなく、文を越える大きな単位が問題になる」とされていることから、逆説法についても2019年度に検討したような語レベルでの分析が可能か、または文レベルで推論が働いているのか検討したい。さらに、オクシモロンが伝える意味を別の言葉を用いて言い換えた場合には失われてしまうような修辞的な効果についても、関連性理論で提案されている表意・推意の強弱や、認知効果と処理コストといった観点から分析したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度への繰越が生じた理由としては、旅費として、調査・研究のための国内外の学会参加を予定し、参加する学会の探索を行ったが、予想に反して本研究と直接関係のある発表やシンポジウムなどが行われる学会が2019年度にはあまり開催されていなかったため、当初計画していた学会の参加を取りやめたためである。 2020年度の研究費については、図書費と旅費を中心に使用する予定である。図書については、関連性理論を中心とした語用論関係の書籍や、レトリック研究関係の資料を充実させて、各分野における最新の研究動向、及び先行研究を調査確するとともに、分析対象となる用例を収集するために活用する。さらに語用論だけではなく、多角的な視点から分析を行うため、本研究の隣接分野である意味論関係の書籍も充実させていく予定である。旅費については、秋以降、コロナウィルスが収束していれば、本研究に関連する学会の年次大会に出席して研究動向の調査をするとともに、これらの学会において研究発表を行なって研究成果を公表し、研究者と意見交換を行なう予定である。
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