2019 Fiscal Year Research-status Report
古英語における人称代名詞と指示代名詞の用法分析―theyの発達過程の解明に向けて
Project/Area Number |
18K00643
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
小塚 良孝 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (40513982)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 三人称代名詞 / 指示代名詞 / 古英語 / 有生性 / ラテン語 / 行間注 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代英語の三人称複数代名詞they(their, them)の由来について調査・考察するものである。この問題については、長らく古ノルド語からの借入であるという説が定説となっている。また、その原因として、古英語期の人称代名詞が形態の曖昧化により機能不全になったこと、その結果、代替手段を持つ必要性があったことが指摘されてきた。また、その一方で、想定される原因は同じであるが、古英語の指示代名詞からの発達であるとの指摘もなされてきた。しかしながら、古英語期の人称代名詞、指示代名詞の使用状況に関する基礎研究が十分に行われていないため、上記のような指摘の裏付けは乏しい。そこで、本研究では、古ノルド語との接触が本格化した後期古英語期に焦点を当て、人称代名詞や指示代名詞の使用状況を詳細に調査し、th-形発達の要因や背景を考察する。資料としては、主にラテン語文献の行間注、翻訳を用いる。 当該年度は、前年度の研究において注目された指示対象の有生性(animacy)と代名詞の選択という観点から、方言や時期の異なるいくつかの文献を詳細に調査した。具体的には、福音書、詩編等を資料として、ラテン語で三人称代名詞の役割を担うis、ille、ipseの翻訳における代名詞(指示代名詞と三人称代名詞)の選択と指示対象の有生性の関係を調査した。その結果、全体的な傾向としては、どの方言の文献においても顕著に、指示対象が無生(inanimate)の場合には人称代名詞よりも指示代名詞の選択率が高いという結果が得られた。 以上の結果から、少なくとも後期古英語においては、北部方言だけではなく、他の方言においても一定の条件下では三人称代名詞と指示代名詞の交換可能性が高まったことが窺え、中英語以降にtheyが広まる要因の一端が垣間見られた。本研究成果は、国内外の学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度課題として残したDurham Ritualの調査を一定程度行うことができ、また、今年度予定していた研究内容もおおむね進めることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでと同様に、行間注や翻訳の調査を進め、データを蓄積しながら、理論面とも往還をして事実の提示と分析を進め、そのプロセスにおいて随時電子コーパスも積極的に活用することで効率的に研究を進める。
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Causes of Carryover |
予定していた図書・物品の購入手続きが一部間に合わなかったことと、予定していた出張が取りやめとなったため。次年度使用額については、今年度予定していた目的で使用する。
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Research Products
(2 results)