2018 Fiscal Year Research-status Report
A Constructional Approach to Language Change
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18K00649
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
米倉 陽子 奈良教育大学, 英語教育講座, 准教授 (20403313)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 受益者受動構文 / 格体系 / 語用論的マーカー / 言語変化の要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
認知言語学の基本的な主張「認知が言語に反映される」は,特定の構文には特定の認知の在り方が何らかの形で関わっていることを是とする。この場合,「構文」は,スキーマ度の異なる様々な統語構造がネットワークを成すイメージでとらえられる。このような構文ネットワークと認知の関係は,本研究のテーマである「近代英語期の構文機能発達」にも大いに関わる。 本年度は,ある構文が発達・拡大するとき,己の持つどのような意味的・機能的特徴を利用し,それらの特徴がどのように相互作用しながら進むのかというリサーチ・クエスチョンを立て,研究を進めた。研究計画では進行相例の採取を行い,as if節の構文化を分析することになっていたが,その前に,英語二重目的語構文(double object construction, 以下DOC)の受け身文の通時的変化を題材に,その構文的変化を引き起こした要因を考察した。これは,構文的変化のメカニズムを理解するのに有効と考えた上での研究計画修正である。 英語DOC受け身文では,現代英語では通常,受益者項(Recipient)が主格を得て主語となる(例: Mary was given the book by John.)。しかし歴史的には,主格を得るのは受益者項ではなく,むしろ主題項(Theme)であった。DOCの受益者項は与格マーキングを受けることが多く,本来は事態の副次的な要素であったのが,文法化を経て「欠くことのできない事態参与者項」となったことが受益者受動への道を開いた。しかし以上のような認知的要因だけでは説明できない側面もあり,より正確なREC受動拡大の理解のためには,通言語的特徴,言語接触の影響,チャンキングの形成,DOCの構文スキーマのVスロットに現れる動詞グループの特徴も考慮に入れなければならない。以上の考察を2018年度日本歴史言語学会シンポジウムにて議論に付した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究初年度からas if導入進行相の例およびas if無し進行相例の採取を開始する予定であったが,構文的変化メカニズムの理解を深めるための英語受益者受動の発達分析に時間がかかり,実際の後期近代英語期の進行相例採取には着手できなかった。近代英語期の受益者受動発達の分析も,この時代の英語における構文的変化を知るには有効であるが,研究計画に照らし合わせると,やや遅れた感は否めない。ただ,as if感嘆文の発達や,解釈的進行相発達の先行研究分析はある程度,進めることができた。また,解釈的進行相 (interpretative progressive, たとえば) とつながりをもつと考えられる語用論的マーカー表現として,I’m just saying.の発達についても,Brinton (2017)等による研究を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は2018年12月に日本歴史言語学会シンポジウムで発表した内容を発展させ,それを3つのテーマに分けて,それぞれ学術論文として執筆・投稿する予定である。具体的には,(1)前期近代英語における受益者受動(REC受動)の構文的拡大,(2)構文と動詞とが融合する際に拮抗する意味的特徴が引き起こす構文的変化のメカニズム分析,(3)英語以外の言語における二重目的語構文の意味特性にみられる通言語的特徴である。また,構文的発達と(間)主観的意味の発生に関わる基礎研究として,英語における談話マーカー(語用論的マーカー)の発達研究について,書評の形でまとめ,8月末締め切りの学術誌に投稿予定である。語用論的マーカーにはその発達過程において主観的・間主観的意味が読み込まれることがよくある。この点でも,語用論的マーカーの発達研究に目を通しておくことは,本研究の目的に合致すると考えている。以上のように,今年度は2018年度の研究内容を論文化する作業を進めるとともに,引き続き解釈的進行相の先行研究の読み込みに力を注ぐ予定である。
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Causes of Carryover |
赤字にならないよう注意して支出していたら,287円余剰金が出た。これは2019年度に繰り越し,大事に使いたい。
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Research Products
(1 results)