2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00650
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
吉村 あき子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (40252556)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アイロニー / コミュニケーション / アブダクション / 推意導出 / ストーリー・アイロニー / 認知処理プロセス / 推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
「明日はいい天気だよ」という友人の言葉を信じて一緒にピクニックに出かけ、大雨に降られてその友人に「本当にいい天気ね」というとアイロニーである。「アイロニーの話者は、発話時点の話者以外の誰かに帰属される思考に対して乖離的態度を表現する」(Wilson 2009)というアイロニーの既定が広く受け入れられているが、この規定は「話者」の存在するアイロニー発話に限定され、ギリシア悲劇や状況アイロニーを説明できない。上記「本当にいい天気ね」はことばのアイロニーであるのに対して、例えば、ギリシア悲劇『オイディプス王』のアイロニーは、出来事の成り行きに感じるストーリー・アイロニー(本研究での用語)である。ストーリー・アイロニーは「アイロニー発話」の存在を前提にしないため、上記のアイロニー既定の対象の外にある。本研究は、人がアイロニー性を認識する限りにおいて、ことば(発話)のアイロニーであれストーリー・アイロニーであれ、何らかの共通点があると仮定し、認知処理プロセスの視点から、何が人にアイロニー性を認識させるのかを明らかにすることによって、アイロニーの本質解明を目指すものである。 2020(令和2)年度は、アイロニー発話(ことばのアイロニー)とストーリー・アイロニーの共通点を探ることを試みた。その結果、コミュニケーションにおいて、①アイロニー発話の推意導出には、アブダクションが主要な役割を果たしていること、②アイロニー発話は、「ことばの役割は聞き手の推論を正しい軌道に乗せることである」というSperber and Wilsonの主張を強く支持する現象であること、③アイロニー発話の認知処理プロセス解明が、ストーリー・アイロニーとの共通点、ひいてはアイロニー性の認識(アイロニーの本質)解明のカギになる可能性が高いこと、等を示唆する結果を得、それに基づく仮説の原型を立てるところまで研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染症拡大による諸状況により、当研究遂行のためのアルバイト雇用が十分確保できず、データ収集及び整理作業が予定通り進まなかったことに加え、各種学会の大会が中止または開催方法等が変更になり、タイミングが合わず研究成果の国内外学会発表が行えなかったため(国内オンライン研究会では発表)、計画より若干の遅れがある。しかしながら、ことばのアイロニー(アイロニー発話)から状況アイロニー・運命のアイロニー(本研究でいうところのストーリー・アイロニー)といった多様なアイロニーに通底する共通点(アイロニーの本質)に関する洞察を得る実質的成果をあげており、次年度にそれを形(学会発表及び論文刊行)にし、当初の研究計画に追いつけると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
若干の遅れを取り戻しながら、年度計画通り進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症拡大による諸状況により、当研究遂行のためのアルバイト雇用が十分確保できず、データ収集及び整理作業が予定通り進まなかったことに加え、各種学会の大会が中止または開催方法変更になり、タイミングが合わず研究成果の学会発表が行えなかったため。
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Research Products
(2 results)