2019 Fiscal Year Research-status Report
Free-rider and Secondary Grammaticalization
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18K00665
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
大澤 ふよう 法政大学, 文学部, 教授 (10194127)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 第一次文法化 / 第二次文法化 / 構造変化 / フリーライダー / 定冠詞 / 不定冠詞 / 助動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、従来の文法化の定義、「語彙項目が内容語から機能語に変化していく」という語彙レベルでの変化に加えて、「新しい場所=機能範疇」を従来の構造に加えて創出することであるという、「構造変化としての文法化」を提案し実証していくことである。さらに文法化は、最初にその機能範疇という「場」をうみ出す一次的文法化(primary grammaticalization)とその出来た「場」のおかげで起こる二次的文法化(secondary grammaticalization) の二段階で構成されていること、一次的文法化に関わる語彙項目は、その機能範疇という場を生み出すことに貢献した牽引役(driving force)であり、二次的文法化に関わる語彙項目は牽引役によってうみ出された「場」に入り込むことにより、自身はあまり貢献することなく文法化したものである、これらをフリーライダー(free rider )と名付け、二種類の要素が存在することを実証していくことである。 二次的文法化という概念や言葉は、これまでも一応提案されてはいるが、その内容は、「さらなる文法化」であるといったあいまいなものに終始し、それでは、従来の文法化との本質的違いはなくて、主に量的なものなのか、といった疑問には答えることができなかった。本研究はその質的違いを明確にすることで、先行研究とは、違った視点を提案している点が、単なる追随的ではない、独自性を持つ研究であるといえる。 国際学会で複数回発表し、また、下の進捗状況でも書いたが、構造変化をもたらすものとしての文法化という主張に大いに後押しとなると思われる新しい発見があった。冠詞の出現が、それまではなかった新しい構文、具体的には二重目的語構文を英語にもたらしたことを突き止め、論文という形でまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね、順調に進行していると考えている。フリーライダーという存在に着目した初めての研究である点に加えて、構造変化という観点での文法化という分析を国際学会を含めて発表して、かなり評価されていると考えている。また、現代英語の不定冠詞 a/an の前身である、古英語の数詞 one 'an' に対して、競争相手として、someの古英語時の前身 sumの存在に着目した。様々な意味的観点や、その古英語のテキストの中での用いられ方を勘案すると、このsum が不定冠詞として文法化される可能性が高かったのにもかかわらず、実際に不定冠詞としての地位を獲得できたのは、2番手であったanのほうであった。sumがなぜanとの闘いに敗れて不定冠詞にはなれなかったのか、という点を明らかにすることは、二次的文法化の本質を明らかにし、フリーライダーの要件を定める点においても重要なことである。 さらに、冠詞の出現が、英語に二重目的語構文(Double Object Construction) をもたらすことになったことを、この冠詞の出現が及ぼした影響と変化ということを探っていくうちに、副産物のように、明らかにすることができた。現代英語に存在する二重目的語構文はかなり、制約の多い特殊な構文であり、古英語には、同じ制約を持つ構文は存在していなかったことを明らかにした。この研究は、Cambridge Scholars Publishing 社から出版された Studies in Linguistic Variation and Change 3というタイトルの論文集の中に含めていただくことができた。文法化研究が、狭い意味での語彙の変化だけではなく、新しい構文をもたらすものである、つまり、構造変化としての文法化という主張を裏付ける大きな一歩になったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの研究において、定冠詞と不定冠詞について、文法化の結果であるとしても、その文法化の在り方が第一次と第二次というように、本質的違いがあることを明らかにし、数量的データによる証拠固めもある程度提示することができたと考えている。今後の研究では、その中でfree riderの要件の同定も、もっと明示的に行いたいと考えている。ただフリーライダーの実例として、不定冠詞をあげ、さらにその競合相手としてsum をあげたのだが、理論的根拠や、統計的根拠の提示がまだ、多少不足しているのではないかとの指摘を学会発表に際して受けた。冠詞の分野に関しては、上記の点を補足できれば、ほぼ今の時点では研究は一区切りをつけることができると考えている。 冠詞や名詞句に関しての研究と比べると、助動詞の研究はこれからの展開に負う部分が多い。法助動詞とdo助動詞に分けて、その違いから進めていけると予想している。 それから助動詞の文法化におけるフリーライダーの存在を、まず、冠詞で用いたのと同じ分析基準で同定できないかと考えている。また、不定冠詞anの競合者としての sumに当たるものが助動詞においても存在するのではないかと考えている。いくつかの候補をすでに念頭においている。 ただ、残念なのは、今年5月に予定されていた日本英文学会と、7月にイギリスで予定されていた中英語学会で、いずれも研究発表を行う予定であったものが、学会がいったんキャンセルとなってしまったことである。ただ、ウエブによる学会という形になると予測されるので、それに向けて準備をしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2回の海外での学会発表に使用した経費の残額が2969円である。この額に見合った適切な支出項目がなく、次年度の交付額と合算して使用する予定である。
(使用計画) 次年度使用額は、2969円である。英語論文を執筆中で、その校閲費用などに充てる予定である。
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