2018 Fiscal Year Research-status Report
生成文法における局所性条件に関するパラメータの理論的および実証的研究
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18K00666
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石井 透 明治大学, 文学部, 専任教授 (30193254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 理論言語学 / 統語理論 / 局所性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直し、パラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業を行った。例えば、Rizzi (1982)は、英語とイタリア語の「wh島の制約効果」有無という言語間変異は境界節点に関するパラメータによって説明できると主張した。さらに、Kayne (1983), Lasnik and Saito (1992), Ishii (1997; 2012c), Saito and Fukui (1998)などでは、英語などの言語では「主語条件効果」が見られるが、日本語・スペイン語・トルコ語などの言語では見られないことが指摘された。さらに、「左枝分かれ条件効果」は、英語などの言語では見られるが、フランス語・ラテン語やポーランド語・クロアチア語などのスラブ系言語では見られない(Uriagereka 1988, Corver 1990)。これらに代表される1960年代以降の局所性条件の言語間差異に関する研究を、それを支えた具体的な言語現象と共にもう一度現在的視点から検討した。そして、「空範疇原理効果」は「狭義の統語論」で統語構造に適用される制約によるものと考え極小モデルでの局所性へのアプローチについて比較・再検討した。これらのアプローチは局所性を統一的に扱おうとする試みであるが、対象とする現象を「空範疇原理効果」に絞って考えた場合、どのようなアプローチを採用すると原理的な説明が可能かを検討する。その上で、Chomsky (2017)で提案されたMERGEの概念(すなわち、MERGEを作業空間(workspace)から作業空間への写像とみなす考え方)に基づき、「空範疇原理効果」はMERGEの性質から導き出すという可能性を追求した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直しパラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業は、その殆どを終えることができている。しかし、英語などの言語では「主語条件効果」が見られるが、日本語・スペイン語・トルコ語などの言語では見られないことが指摘されているが、日本語での「主語条件効果」について詳細に検討すると、その効果が現れない場合も存在するように思われる場合も見られることも発見した。さらに、「左枝分かれ条件効果」は、英語などの言語では見られるが、フランス語・ラテン語やポーランド語・クロアチア語などのスラブ系言語では見られないと言われているが、現象によっては「左枝分かれ条件効果」が観察される場合もあることも分かった。極小モデルでの局所性へのアプローチについて比較・再検討する作業もその殆どを終えている。Chomsky (2017)で提案されたMERGEの概念(すなわち、MERGEを作業空間(workspace)から作業空間への写像とみなす考え方があり、そこから「空範疇原理効果」はMERGEの性質から導き出すという可能性を追求することも作業が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直しパラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業については、日本語などでの「主語条件効果」について詳細に検討すると、その効果が現れない場合も存在するように思われる場合も見られることを発見した。これまでの研究結果から考えると、述語が非能格述語なのか非対格述語なのかが関わっているように思えるが、日本語での非能格述語と非対格述語の区別は難しく、この点については次年度以降も更に詳細な検討を要すると考えている。さらに、「左枝分かれ条件効果」は、フランス語・ラテン語やポーランド語・クロアチア語などのスラブ系言語でも、現象によっては「左枝分かれ条件効果」が観察される場合もあることが分かった。どのような操作が関わっているかに応じて効果に変化があるのではないかと考えられるが、次年度以降はどのような操作の場合に「左枝分かれ条件効果」が観察されるのかを詳細に検討し、その原因の追及へと進めていく方針である。極小モデルでの局所性へのアプローチについて比較・再検討する点については、Chomsky (2017)で提案されたMERGEの概念(すなわち、MERGEを作業空間(workspace)から作業空間への写像とみなす考え方)に関しては、ここ1年間でも様々な新しい動きがあり、次年度以降もそれを詳細に追っていく必要があると考えている。
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