2019 Fiscal Year Research-status Report
生成文法における局所性条件に関するパラメータの理論的および実証的研究
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18K00666
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石井 透 明治大学, 文学部, 専任教授 (30193254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 理論言語学 / 統語理論 / 局所性 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直し、パラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業を 行ったが、今年度もこの作業を継続的に行った。特に「wh島の制約効果」の言語間変異に関するRizzi (1982)による提案、「主語条件効果」の言語間差異に関するKayne (1983), Lasnik and Saito (1992), Ishii (1997; 2012c), Saito and Fukui (1998)での提案、さらには「左枝分かれ条件効果」の言語間差異に関するUriagereka (1988), Corver (1990)を扱った。そして、これらに代表される1960年代以降の局 所性条件の言語間差異に関する研究を、それを支えた具体的な言語現象と共にもう一度現在的視点から検討した。「空範疇原理効果」は「狭義の統語 論」で統語構造に適用される制約によるものと考え極小モデルでの局所性へのアプローチについて比較・再検討し、Chomsky (2017, 2019a, b)で提案されたMERGEの概念に基づき、MERGEの性質から導き出すという可能性を追求した。これに加えて、「下接条件効果」に関しては、韻律構造に適用される何らかの制約によるものであるという可能性を追求した。韻律構造は、統語構造とは独立しているが、写像によって結び付けられているとする「韻律構造仮説」(Selkirk 1986; 1995, Nespor and Vogel 1986など)の立場、特にKratzer and Selkirk (2007)などで提案されている、「位相」が韻律構造を決定するのに重要な役割を果たすという考え方を採用し、韻律構造による「下接条件効果」の説明を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直しパラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業は、 その殆どを終えることができた。昨年度の研究で、英語などの言語では「主語条件効果」が見られるが、日本語・スペイン語・トルコ語などの言語では見られないこ とが指摘されているが、日本語での「主語条件効果」について詳細に検討すると、その効果が現れない場合も存在するように思われる場合も見られることも発見したが、それをどのように分析し説明は未だに検討中である。Chomsky (2017, 2019a, b)で提案されたMERGEの概念(すなわち、MERGEを作業空間(workspace)から作業空間への写像とみなす 考え方があり、そこから「空範疇原理効果」はMERGEの性質から導き出すという可能性を追求する点も、分析・説明についての提案を国際学会にて発表を行い研究成果が出ている。しかし、未だにMERGEの概念の精密化などの課題も残されている。「下接条件効果」を韻律構造に適用される何らかの制約によって導き出す課題も、個々の移動規則に関しては国際学会発表などで提案を発表し、研究成果が出ている。しかし、未だに移動現象すべてに関する一般化までは至ってない点は課題も残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの枠組みで提案された局所性条件の言語間差異に関する議論を現在的視点から徹底的に見直しパラメータ理論で説明すべき研究課題を抽出する作業につ いては、日本語などでの「主語条件効果」について詳細に検討すると、その効果が現れない場合も存在するように思われる場合も見られることを発見している。これ までの研究結果から考えると、述語が非能格述語なのか非対格述語なのかが関わっていると考えられる。今後は「主語条件効果」の言語間差異に関する原理的分析及び説明を提案する方針である。極小モデルでの局所性へのアプローチについて比較・再検討する点については、Chomsky (2017, 2019a, b)で提案されたMERGEの概念(すなわち、 MERGEを作業空間(workspace)から作業空間への写像とみなす考え方)に関しては、ここ1年間でも様々な新しい動きがあり、次年度以降もそれを詳細に追っていく必要があると考えている。特に、copyとrepetitionの違いを明らかにすることが重要となるが、これに関しても様々な新しい提案が提出されており、それらを注視しながら研究を推進する方針である。「下接条件効果」を韻律構造に適用される何らかの制約によって導き出す課題は、研究対象とする移動規則をさらに広げて、移動現象すべてに関する一般化を目指す方針である。
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