2023 Fiscal Year Research-status Report
第二言語としての日本語の物語文における発達の普遍的・個別的特徴に関する研究
Project/Area Number |
18K00713
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
稲葉 みどり 愛知教育大学, 教育学部, 特別教授 (50273298)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 物語文 / 第一言語発達 / テキストマイニング / 共起ネットワーク / Frog Story |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本語を母語とする子どもと大人の発話資料を基に、物語文の物語談話構成の発達過程を解明することを目的としている。当該年度は、主に大人の物語文を幼児からの発達の到達点と捉え、子どもの物語文と比較し、その特徴の解明に焦点を当てた。物語文を書き起こしたもの(以下、テキスト)は、KH Coder 3(樋口, 2020)を使用してテキストマイニングを行い、談話構成、発話量、異なり語彙、言語表現等を子ども(9歳児、11歳児)と比較した。そして、以下の結果を得た。先ず、頻出語と共起ネットワーク分析からは、大人のテキストでは物語の局所構造(物語の個々の場面を構成する言語要素)、及び、物語構造(物語の全体を統括する「設定」「展開(起・承・転)」「結末(結)」等の談話構成要素)の両方が備わっていることが確認された。よって、大人のテキストは、結束性と一貫性が整い、物語談話の構造としての普遍性を備えたものであることが明らかになった。次に、総文数、総語数、異なり語数を子どもと比較すると、大人のテキストは、長さという発話の量的な側面で幅が非常に広い。異なり語数は個人により差異が大きく、内容的な側面からも多様である。さらに、特徴語を分析すると、大人のテキストは、創造的な作話や独創的な解釈が加わっており、それにより物語が膨らませられ、より個性豊かで味わい深いものになっている。その方法は、絵描写、直接話法、擬声語・擬態語等の言語表現によるもの、第三者的な視点からの語りにおける話者の視点の変換(客観的描写と内面に入り込む語り)、メインラインからの脱線、或いは、聞き手に疑問を投げかけるオープンエンドな結び等、多様な語りのスタイルが観察された。これらの手法により物語の独自性、個別性、創造性が醸し出されている。興味深いのは、これらの多様なスタイルの源流は、子どもの発達過程の中に萌芽が見られることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに3歳児から11歳児までの言語分析を行い、概ね順調に進んでいる。今年度は、大人の発話を分析し、第一言語発達の過程を総括した。これは、第一言語の発達過程は第二言語習得を考える際のベースラインとなる。次年度は、第二言語発達の過程を考察する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに3歳児から11歳児までの物語文における言語発達について考察し一定の結果を得た。さらに、大人の発話(物語文)を分析し、11歳以降の発達についても考察した。今後は、第二言語の発話資料の分析を中心に行い、第一言語習得の発達過程と比較することにより、その特徴のいくつかを明らかにする予定である。それらをまとめて、研究全体の総括とする。
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Causes of Carryover |
学会等への参加や調査研究への制限が緩和されたことから、次年度は、図書館、資料館で資料調査、及び、学会等への参加をさらに進める予定である。前年度(令和5年度)中に応募した国内外の学会は、主に次年度(令和6年度)に開催されるので、研究の推進や研究成果の公表のための出張費用の一部を次年度に回す必要が生じた。尚、現段階では、令和6年度に3件の学会発表が採択されている。また、次年度は、研究の総括と研究成果報告書の作成に予算を使用する計画である。
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