2018 Fiscal Year Research-status Report
Relationship among morphological awareness, vocabulary, and reading comprehension in a foreign language
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18K00737
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山下 淳子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00220335)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 形態素知識 / 読解力 / 語彙力 / 第二言語 / 形態素認識 / 形態素処理 / 派生形態素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は英語を外国語として学ぶ大学生を対象に、英語の形態素知識と読解力、語彙力との関係をモデル化することを最終目的としている。初年度の今年は、関連研究を概観して次のような点を整理、理解することを目的とした:形態素知識(形態素認識、形態素処理を含んでとらえる)の概念、形態素知識の習得、形態素知識と読解力、語彙力の関係を支持する理論的根拠と実証研究、形態素知識の測定方法と測定上の注意点。 まず形態素知識はよく引用されるKu & Anderson (2006)で「意味伝達の文脈がない状況において(in the absence of communicative context)、形態素に意識を向け(reflect upon)、操作し、語形成規則を使える能力」(p.163)と定義される。その他、形態素知識は、抽象的・汎用的なメタ言語知識であり(Kieffer & Lesax, 2012)、多次元的である(Goodwin et al., 2017)というのも概念上重要な特徴である。英語の形態論には屈折、派生、複合があり、一般的に母語話者の子供では、屈折形態素の習得が最も早く、次に複合語、派生形態素と続く(Ku & Anderson, 2006)。 形態素知識と読解力、語彙力の関係についての実証研究は急速に増えているが、読み手の年齢、発達段階、言語背景、学習環境などにより、結果が異なっており、まだこれからの研究が必要である。形態素知識を測るタスクは多数あり、本年度は、形態素知識をより純粋に測定する示唆を得るため、34のタスクを集めその特徴を吟味した。そして、次の点が浮かび上がった:語彙力と区別するため、疑似語・形態素そのものを使う、実在語を使用する場合は既知語を基本語とする、文脈の使用は必要最低限にする、可能な限り複数のタスクを使う。これらの点は来年度以降の測定タスク作成に生かされる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、関連文献をレビューしてこの分野の研究の進展を理解し、今後の進み方への方針を立てることを目指した。特に形態素は意味の最小単位といわれるものの、音韻、統語情報も内包しており、必然的に言語の様々な側面との関連が強いことから、形態素知識の測定に語彙や文法など形態素知識以外の言語知識が影響することが十分に予測できた。そのため、形態素知識の測定法について概観し、測定法からくみ取れる研究上の構成概念を探り、よりよい測定について知見を得るとともに、できれば、本番のデータ収集で使うテストの原形を作成できればよいと思っていた。しかし、上に述べたように知見を得ることはできたが、テストの原形を作成するところまではいかなかった。その点では遅れているといえる。しかし、測定法についての考察が、世界的な第二言語の語彙学会(Vocab@Leuven)で発表採択を受けたことは、当初の予定にはない成果であった。これらをプラスマイナスで考えると、初年度の進展は、ほぼ予定通りか、多少遅れているといえるのではないかと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の中心となる3変数の関連性について調べるために、測定方法を確定し、テストを作って予備調査することが次の一歩である。読解力と語彙知識については、いくつかのテスト候補が思い当たるので、それらをまず予備調査する。形態素知識については、上にまとめたような測定上の知見を踏まえるものの、多次元的知識のどの側面を含むのか、さらなる理論的考察を行った上で決定して予備調査に望みたいと思う。近年発表された、コンピュータ適応型の派生形態素知識テスト (Mizumoto et al., 2019)の使用の可能性も探る。 英語の3種類の形態素知識のうち、派生形態素は屈折形態素より読解に関係していること(Kahn-Horwitz & Saba, 2018)、日本人英語学習者の大学生レベルでは屈折形態素の習得は高いが派生形態素の習得は低く(McLean, 2018) 個人差が予測されることなどを鑑みて、研究の中心は派生形態素になると思うが、複合語(compound words)の習得については、日本人を対象にした実証研究を知らない。まず、実態を調べてみて、個人差が大きいようであれば、複合語も形態素知識の変数として入れる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額発生の理由は主として2つある。1つは、予定していた国際学会への参加を見合わせたことである。極めて多忙であったことと、発表が採択されなかったためである。2つ目は、パソコンの買替を少し延期したことである。新しいパソコンの導入は、設定、ソフトやデータの移行などかなりの時間と労力の投資が必要になるため、近いうちに更新・入替が必要になる統計ソフトの管理に合わせて新しくする方が効率的と判断したためである。次年度使用額は、実績報告で書いたように、申請時には予定していなかったが、発表が採択された国際学会への出席と、学会発表に使用するモバイルパソコンの調子が悪くなったので、それの買替に充てる計画である。
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