2018 Fiscal Year Research-status Report
An investigation on semantic extension of onomatopoeia by learners of Japanese as a second language
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18K00867
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
玉岡 賀津雄 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70227263)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オノマトペ / 意味拡張 / 擬音語 / 擬態語 / 擬情語 / 語彙習得 / 構造方程式モデリング / 語彙的類像性 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語を母語とする幼児は,音と動作を関連づけるプロセスを経てオノマトペを習得するといわれている。ところが,外国語としての日本語を学ぶ場合は,音との関連性がないまま学習するため,このプロセスを経ることなくオノマトペの習得が進む可能性がある。 本科研では,中国人日本語学習者の意味理解テストのデータに基づいて,日本語母語話者と同じような意味拡張のプロセスで日本語学習者もオノマトペを習得していないことを,構造方程式モデリング(SEM)の方法で検証した。具体的には,直列の擬音語から擬態語へという習得の因果関係はなく,語彙知識が擬音語と擬態語の習得に別々に寄与していることを実証した。 同様に,中国人日本語学習者に触覚オノマトペの意味理解テストを行い,触覚から触覚以外への意味拡張,すなわち「具象的な意味から抽象的な意味への意味拡張」による日本語オノマトペを連続的に習得しているかどうかをSEMの統計手法で検討した。その結果,中国人日本語学習者は,同一のオノマトペの触覚と抽象的な意味を別々に習得していることを実証した。 さらに,オノマトペは,サ行変格活用のスルを付加して動詞として,また他の動詞を修飾する副詞としても機能する。日本語母語話者は,まずは動詞を習得してから副詞を習得するという順序があるといわれている。これは統語習得の観点からみた考察である。この点についても,中国人日本語学習者が,日本語母語話者と同じような習得のプロセスを経るかどうかを意味理解テストで検証した。その結果,日本語母語話者のようなスル動詞から副詞への品詞転換による習得という連続性はみられず,擬音語と擬態語の品詞習得では,副詞としての使用のほうがスル動詞よりもより良く習得された。さらに,「擬音語>擬態語>擬情語」の順でオノマトペの副詞としての使用をよりよく習得しており,オノマトペの習得には語彙的類像性の影響がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
中国人日本語学習者では,日本語母語話者のような擬音・擬態両用のオノマトペおよび触覚の多義オノマトペの基本義と拡張義の習得という連続的な順序性がないことを実証した。多義オノマトペの語義を個別に習得した結果,同一のオノマトペのそれぞれの意味が意味ネットワークの形式ではなく,分散的にメンタル・レキシコンに記録されていると予想される。SEMによる因果関係についての解析結果,語彙力とオノマトペの習得には有意な因果関係がみられた。語彙知識の増加とともに,オノマトペの知識も蓄積されてきたことが示唆された。日本語学習者の擬音語と擬態語の習得に影響する主要因が異なることから,音象徴への感受性によりオノマトペを感覚的に習得する可能性は低く,むしろ一般語彙のように習得していると考えられ,「一般語彙としての日本語オノマトペの習得」という仮説を支持した。これらの研究は,(1)「中国人日本語学習者による擬音語と擬態語の習得に影響する要因」『中国語話者のための日本語教育研究』(2018年,9号, 35から51ページ)および(2) 「『触覚から触覚以外へ』の意味拡張によるオノマトペの習得の連続性に関する検討」『第二言語としての日本語の習得研究』(2018年,21号, 7から24ページ)に掲載された。また,日本語母語話者は,オノマトペの統語習得プロセスはスル動詞から副詞へと品詞転換しているのに対して,中国人日本語母語話者には,こうした品詞転換過程が存在しないようである。この研究は,現在,執筆中である。さらに,日本語学習者は,擬情語動詞文のNP付加ルールを適用していなかった。この研究は,現在,学会発表 の準備中である。以上のように,中国人日本語学習者のオノマトペの習得は,日本語母語話者とは大きく異なっていることを実証し,それらを詳細に解明した。以上のように,オノマトペの習得研究は,計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,次のことを研究していく。第1に,中国人日本語学習者を対象としているので,日本語母語話者については研究の範囲ではないが,第2言語におけるオノマトペの習得から逆に第1言語における習得への提言を考えてみたい。第2に,共感覚比喩として,聴覚と視覚で分けてきた。しかし,この区別が曖昧なオノマトペも複数存在する。このようなオノマトペについても調査を拡大して検証していきたい。第3に,日本語母語話者ではオノマトペが動詞から副詞の用法へと品詞上の習得が進むとされている。しかし,中国人日本語学習者の場合は,逆に副詞から動詞の用法という順序で習得されるようである。これは,日本語のオノマトペ相当の語が,中国人日本語学習者の場合では,中国語においてまず動詞としての使用から出現するからではないかとい思われる。また,日本語を学習する場合も,動詞としての使用をまず学習するのではないかと思われる。これについては,母語である中国語からの影響および日本語学習における原型の出現という観点から検討していきたい。第4に,オノマトペは,有標と無標の統語構造を持つ。オノマトペにスル軽動詞が付加されて他動詞として使用される場合は,目的語をとり「目的語+(オノマトペ)スル」の有標の構造となる。この場合は,共起する目的語の名詞などからオノマトペの意味を推測し易いのではないかと思われる。一方,自動詞では,目的語をとらないので,無標となり,意味推測が難しくなる。他動詞あるいは自動詞のオノマトペの動詞としての使用の習得について比較することで,検証することができる。これについては,今後研究していく。第5に,オノマトペの習得順序について,「連続性」という表現で研究を進めてきた。しかし,これはカテゴリカルな分類であり,連続というより区分的な判断でああろう。今後,オノマトペを分類的扱いで,統計解析を行っていくことも検討する。
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Research Products
(20 results)