2018 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期イギリス文化外交における文化触変の理論的・実証的研究
Project/Area Number |
18K00916
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡辺 愛子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10345077)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イギリス文化外交 / 20世紀イギリス史 / 冷戦期 / ブリティッシュ・カウンシル / オーストリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、イギリスを対象に、20世紀という歴史的文脈における政治的な文化の様相を理論と実証の両側面から考究するものである。
初年度は、イギリスの文化外交が本格化した20世紀初頭から「ソフトパワー」や「パブリックディプロマシー」を外交上の重要な戦略として活用しはじめた21世紀初頭の現在までを、大きく三つの時代: ①「戦前・戦時期」、②「冷戦期」、③「冷戦終結後~21世紀初頭」に分けて調査することで、海外に投影されようとする文化が、国内あるいは国際状況のどのような動向を受けて変容して行ったのかを見極め、その中間に位置する②冷戦期の特性を浮き彫りにすることを目的とした。そのために二次資料の読み込みに多大な時間を費やすこととなったが、夏季のほか冬季にも海外出張を加えたことで、イギリスの公文書館所蔵の史料(おもにブリティッシュ・カウンシルと外務省関連の一次資料をかなり収集することができた。
さて、当初の目的は上記のごとく冷戦期の特異性を「長い20世紀」の文脈から解釈することであったが、調査の途中でオーストリアとイギリスの文化関係に注目することとなった。すなわち、ふつう冷戦の中心的アクターとは認識されてはいない、西側陣営のイギリスと、事実上、ソ連の衛星国ではなかったオーストリアとの文化関係である。オーストリアは、ソ連邦の衛星国への編入を免れたとはいえ、地理的に見れば東欧諸国と隣接し、東側から当時多大な政治的プレッシャーを受けていた。そのようななか、アメリカ合衆国、フランスとともに西側の分割統治に当たっていたイギリスは、この緩衝地を東側陣営へ入りこむ好機としてとらえ、なんらかの文化介入を目論んでいていたのではないかという問題意識を持つにいたった。本研究課題を遂行するにあたり、今回、オーストリアという国の特異性を発見したことは、来年以降の研究にも大きな意味を持つものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、イギリスの文化外交が本格化した20世紀初頭から約100年間のイギリスの文化外交の特徴をとらえ、さらに冷戦の特異性を浮き彫りにすることを目的として研究を進めたが、ここ数年量産されている諸研究者の学術論文を精査するのに想定以上の時間を要してしまった。また、上述のとおり、調査のなかで、これまで研究対象となっていなかったイギリスとオーストリアの文化関係に関心が生じたことも一因である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、研究申請書の通り、研究を遂行する。上記で生じた遅れは2年以降の研究テーマにおいても踏まえなければならない論点であるため、各年テーマを考察する際に、カバーしていく。また、オーストリアとイギリスとの文化関係に関しても、非常に興味深い様相をはらんでいることが予想されるため、引き続き資料を探していきたい。
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Causes of Carryover |
端数8円は次年度に繰り越す。
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Research Products
(3 results)