2021 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期イギリス文化外交における文化触変の理論的・実証的研究
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18K00916
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡辺 愛子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10345077)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イギリス文化外交 / 20世紀イギリス史 / 冷戦期 / ブリティッシュ・カウンシル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、20世紀イギリスにおける政治的な文化の様相を理論と実証の両側面から考究するものである。2020年初頭にはじまった新型コロナウィルスの世界的な拡大によって、本研究課題も大きな打撃を受け、研究遅延が続いていたが、4年目(本来の最終年度)の本年度は、後半イギリスに在外研究に出る機会を得ることができたため、立ち遅れていた研究を挽回できるよう努めた。本研究課題では、歴史的文脈における政治的な文化の様相を理論と実証の両側面から考究するという観点から、事象研究の一つに<表象としての文学作品から当時の主観的気運をとらえる>ことを挙げていた。
冷戦期に東西両陣営で読まれていた代表的なイギリス文学作品といえば、ジョージ・オーウェルの『動物農場』と『一九八四年』である。ソ連では「禁書」とされていたこれらの作品を東側に積極的に伝播させようと尽力していた政府機関は、イギリス外務省内部の秘密部署IRD(Information Research Department)であり、これらの作品は、当時の冷戦の気運を多分に受け、反共・反ソのプロパガンダとして同省に戦略的に使用されたことがこれまでに判明している。しかし、公的な出版が妨げられていたために、その受容の程度を解明するために、地下出版(サミズダート)の動向に目を向けることとなった。調査の結果、東側陣営のかなり広範囲の国々でこれら二作品が読まれていたことがわかった。ここで注目すべきは、地下出版繁茂の経緯と様態であり、それを把握することができれば、本研究課題のもうひとつの切り口である<文化論的観点>から、文化浸透の全体像を解明できるのではないかと考える。文学作品の水面下での受容が、いかにして世論形成に寄与し、最終的には冷戦終結に向けた民衆の「声」となったのか。この新たな問題意識を得ることができたという点で、収穫の多い年度であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に起こったコロナ禍の世界的な蔓延によって取りやめざるを得なかった海外渡航を2021年度に実行することができたことから、「遅れている」という進捗状況からは脱することができた。この遅れを取り戻すべく、21年度後半のイギリス滞在では上記のテーマについて考究することができ、「通常」の状況に戻りつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のような一定の成果は見られたものの、コロナ禍における研究制限が完全になくなったわけではなく、研究遅延も解消していないことから、本研究課題をもう一年延長することで、本研究課題の主眼と事例研究である「サミズダート文学による世論の言説形成」という新たな知見についてさ考察を進めていきたいと考える。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴う研究の遅延による。来年度の助成金は、海外出張の経費として充てる予定である。
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Research Products
(2 results)