2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00927
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
長谷川 博史 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (20263642)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中世 / 西日本海 / 遠隔地間交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世の西日本海海域に関わった北陸から九州・東シナ海沿岸島嶼にかけての地域権力や船持衆・商職人・輸送業者等の諸勢力が、相互にどのような関係性を有し、またそれがどのように変化していったのかを、できるだけ具体的に追究することにより、当該海域の歴史的性格や時代的特徴を広域的な観点から明らかにすることを目的とする。しかし、これまでそのような観点で文献・史料が通覧されたことはないと思われ、調査・研究の基盤整備が必要であった。そのため、2018年度には、以下のように作業を進めた。 まず基本的な文献の収集を行った。たとえば、勤務地には存在しない九州地方を中心とする自治体史や史料集を取り寄せ、また、物の移動に関する新しい考古学的成果の情報を収集するとともに、地域権力・商人・運輸業者の交流・移動に関する文献史料の収集を継続した。 次に、以下のような現地調査と文献・史料解読を通して、西日本海海域と西日本各地との遠隔地間交流に関する考察を行った。【A 北東日本海海域・小浜との関係】については、小浜の旧港湾周辺や九里半街道を調査し、尼子氏と武田氏・朝倉氏、および遠隔地との関係について考察した。【B 瀬戸内海地域・堺との関係】については、伊予河野氏・能島村上氏の関連遺跡において情報収集を行った。【C 北部九州・博多との関係】については、宇佐・博多・芦屋を中心に踏査し、文献・史料の収集を通して、大内氏・大友氏・宗氏と西日本海地域・石見銀山との関係について考察した。【D 東シナ海・南九州・南西諸島との関係】については、南九州を訪れ、島津氏一族と周辺海域との関係について考察した。 以上のように、2018年度においては研究基盤整備に終始したため、本科研にもとづく研究成果を具体的な形で公表するには至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西日本各地における情報収集の手がかりを得るため、以下のような現地調査を行った。 【A 北東日本海海域・小浜との関係】については、福井県小浜市周辺と九里半街道を踏査し、広域流通の痕跡がある石材の確認や、港湾景観復元に関する現地調査を行った。【B 瀬戸内海地域・堺との関係】については、愛媛県の湯築城、能島村上水軍関係史跡において情報収集を行った。【C 北部九州・博多との関係】については、九州国立博物館、福岡市博物館、芦屋・山鹿の鋳物師に関する情報など、中世西日本海の西側の重要拠点であった北部九州の中世諸港湾に関する文献史料と、関連する城郭遺跡、公表されている考古学的成果、最新の歴史資料情報を収集した。【D 東シナ海・南九州・南西諸島との関係】については、鹿児島県歴史資料センター黎明館、飫肥城歴史資料館・安国寺跡・油津・外之浦周辺、持躰松遺跡、坊津、鹿児島福昌寺跡・戸柱港跡・御内跡・清水城跡を訪れて、中世西日本の南西側の重要拠点であった南九州の中世諸港湾に関する文献史料と、公表されている考古学的成果、最新の歴史資料情報を収集し、琉球王国や後期倭寇・密貿易海商根拠地(浙江・福建地域)と日本の畿内を結んだ拠点港湾について、港湾間や内陸拠点との関係、および景観復元に関する現地調査を行った。 以上のうち、瀬戸内海地域については十分な調査の機会を確保できなかったが、南九州における調査は当初は2019年度に実施する予定であったものを前倒ししたものである。そのため、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な文献の収集と関係史料の博捜を引き続き進め、「中世西日本海 遠隔地交流関係史料」をまとめたい。特に、琉球王国に残された日本列島とのつながりの痕跡を探るために、那覇市歴史博物館等における「家譜」の調査を予定している。具体的には、17世紀前半以前の始祖伝承のなかに、日本列島のとりわけ日本海側列島諸地域と何らかの関連を有する情報がないか、確認したい。直接それを示す情報が書かれている可能性は決して高くはないと予想されるが、できる限り通覧したい。
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Causes of Carryover |
2018年度は、実際の交付額に即して、備品費よりも、現地調査のための旅費の使用を優先的に行うこととした。 ただし本務とのかねあいで、日程的に一部の調査を翌年に繰り越さなければならなくなり、結果的に備品費と旅費のバランスを調整できなかったので、2019年度にまとめて使用する方が効果的であると考えて、次年度使用額を残す判断をした。
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