2020 Fiscal Year Research-status Report
植民地テクノクラシーを超えるための台湾人による立憲的自治構想に関する研究
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18K00940
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野口 真広 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, その他(招聘研究員) (30386560)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 台湾 / 植民地 / 帝国 / 日英比較 / インド / 植民政策 / 民族運動 / 立憲主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
海外での資料調査ができないため、日本国内にある台湾関係資料のほか、これまでに収集した台湾人民族運動家の資料および植民地統治史に関する日本と台湾の研究状況の分析を中心に研究を進めた。 本研究において重要な史料群となるのは、昭和初期に早稲田大学へ留学した楊肇嘉とその周辺にいた民族運動家の活動記録である。研究テーマである「植民地人が日本の立憲主義をより普遍的なものに変える可能性を持っていたこと」を明らかにするために、楊肇嘉が残した蔵書や彼が主導した地方自治連盟の政治的な献言や活動記録を分析した。 これまでに収集した資料を多角的に研究するため、日本の政治史における台湾統治史を俯瞰的にとらえることを本年度の主要な活動に設定した。俯瞰するためには、次の二つの視点を設定した。一つは台湾史そのものの時間軸において日本植民地時代がどのような意義を持っているのかという視点である。これにより、台湾の先史時代から現代にいたるまでに見られる多元的社会の存在に気付き、それが植民地時代の柔軟かつ着実な政治的成長と関係することが分かった。二つめには日本の国史という枠組み自体を相対化し、日本と台湾という二項対立の歴史として捉えるのは適切ではなく、日本の中央政府、日本の周辺地域、台湾という三項の歴史として近代史を考えるという視点である。 日本帝国の立憲主義が不完全であり、真の立憲主義を台湾人が求めたことを実証するためには、前提として「日本」という帝国内部自体に矛盾が生じており、日本の中央政府の政治に対して不満を持つ「日本人」がいたことを同時に語ることができなければならないはずである。その矛盾した状況は、具体的に言い換えるならば、日本帝国の政府、アイヌや沖縄の人々と台湾の人々の間にあったものである。三項の視点は、特に国史教育への批判的な検討から明らかにできるため、本年度は日本と台湾の国史教科書を比較した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
海外出張ができないため、予定していた英国、インド、台湾での新規資料調査を延期した。そのため、これまでに収集してあった資料の整理と分析に時間を充てつつ、日本国内にある植民地台湾の資料収集に力を入れた。しかし、予定していた海外の資料収集ができないため、楊肇嘉をはじめとする台湾人の立憲主義を検証する上でかなりの制約を受けている。
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Strategy for Future Research Activity |
海外の公私文書資料館を訪問することが相当程度の長期間において難しいと予想されるため、海外の研究者との共同資料調査に関する提携を進め、相互に自国の資料の収集を行い、提供し合う仕組みを構築する必要がある。本年度は、台湾の中国文化大学学長の徐興慶教授、早稲田大学社会科学総合学術インの劉傑教授、長崎大学多文化社会学部の森川裕二教授と協力して、各研究拠点での共同文庫を創設し、史資料の収集において互いに支援しあう仕組みづくりに着手した。互いの史資料情報の共有や現地の研究状況についても共有していくことで、コロナ下における在外研究の制約に対応し、研究を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
海外での資料調査ができなかったことにより、出張費や資料複製費用が残ったため。
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