2018 Fiscal Year Research-status Report
1970年代~80年代の消費者運動の再編成過程に関する実証的研究
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18K00946
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
原山 浩介 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (50413894)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 公害 / 革新 / 市民運動 / 食糧管理法 / 琵琶湖 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主として1970年代の消費者運動に関わる資料調査を行った。その内容は、大きく次の二つの事項に分けることができる。 一つ目は、京都における生協運動に関わる資料調査である。ここでは、京都消団連の広報紙および若干の内部資料の検討を行った。予期できたことではあるが、農薬ならびに公害など、新興の諸団体が精力的に取り組み始めた分野についての動きはにぶい一方で、暫定的な分析ではあるが、「革新」系の市民運動の論理の成熟に向かう過程として把握することの妥当性が高いと考えるに至った。 二つ目は、特に米価問題をめぐる消費者団体間の立場の相違の背景として、ヤミ米の存在を検討した。その性質上、十分な裏付けを取ることが難しいのだが、相対的に大阪においてヤミ米の存在感が高く、このこと大阪における消費者運動の編成、および全国レベルの消費者団体間の見解の相違の背景のひとつととなっていたという仮説を持つに至った。 この二つの論点は、1970年代以降の消費者運動についての理解の骨格を作る基点となる。一つ目の論点は、いささか図式的ではあるが、前衛的な立場からの問題提起を担う新興諸団体と、その一方での、「革新勢力」の圏内で主張の幅を広げる既存の諸団体という構図があり、そのなかで前衛性の「革新」への浸透が漸進的に展開する過程を把握していくことにつながる。そして二つ目の論点は、食管制度への向き合い方の相違のなかで、地域特性を背景にしつつも、「革新」がより制度を堅持する側に距離を縮めるという構図につながる。 今年度は、こうした大きな枠組みを構想するための作業仮説を、資料の裏付けを得ながら明確化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の経過のなかで、消費者運動に関わってきた関係者からの聞き取り調査の本格実施に至らなかったことが、当初計画からの進捗の遅れの原因となった。この背景には、聞き取り調査の前提となる市民運動における「革新」の位置についての理解をめぐりより慎重な検討が必要になったことと、特に琵琶湖の汚染問題をめぐってパースペクティブの再検討を迫られたことがある。 前者については、「前衛」と既存の諸団体の間の関係性をめぐり、より実証的に詰める作業に当初の想像以上に時間を要したこと、さらにその過程で、食管制度をめぐる立場の相違が異なる角度からこの問題に絡みついていることを解きほぐす必要があったことによる。ただ、これらの検討は、研究のとりまとめにおいては有意義なものでもあり、決してネガティブな迂回とは考えていない。 後者の琵琶湖の問題をめぐっては、今年度実施した、漁師からの予備的な聞き取り調査において、そもそも琵琶湖の漁獲量の減少という問題自体が1970年代以降において解消したわけではないこと、それにも関わらず市民運動における琵琶湖への関心は低下していることに直面し、この矛盾を社会運動史においてどのように理解すべきなのかを検討することを迫られたことがある。この点については、琵琶湖に関わるこれまでの研究や市民運動の蓄積の整理からスタートせざるを得ず、現在のところ、データの整理にとどまっている。この問題ならびに作業の成果は、次年度以降の聞き取り調査の計画策定のなかで活かすこととしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの私自身の研究のなかで、さほど明示的ではなかった「革新」と市民運動の関わりを浮かび上がらせることをめざし、今年度得られたパースペクティブに基づきつつ、聞き取り調査、ならびに資料の収集と分析を進める。これは、当初の研究計画のなかで想定していたものではあるが、今年度の研究過程でより踏み込んだ構図を構築する見通しを持つに至っており、これをより実証性を高めて示すことを目ざす。 また、琵琶湖の汚染をめぐる市民運動をめぐっては、汚染による直接の被害者ではない琵琶湖上流の住民による取り組みとして注目を集め、1970年代の市民運動の到達点としての評価も存在している。しかしながら、今日に至るまでの過程で、問題解決に至らないままに関心の希薄化が起こっていることを考えると、そうした評価そのものを、社会運動論の蓄積過程の問題として再検討するとともに、1970年代から80年代に展開した市民運動の時代的特性とその限界を見直す必要がある。 この琵琶湖をめぐる諸問題を解明するためには、市民運動側からの聞き取り調査に加え、漁師からの聞き取りを行いながら、総合的な把握を目ざす必要がある。ただ、これは本研究で取り組むべき範囲を超える可能性があり、成果のとりまとめに支障を来す可能性がある。そのため、本研究においては、消費者運動をめぐる分析・評価の必然性において漁師への調査に取り組むことを心がけ、課題としての発展性の度合いに応じて、新たなテーマ設定の研究課題への分岐/継承を検討することとする。
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Causes of Carryover |
聞き取り調査、および現地での資料調査の回数を減らし、資料の分析と構造的な把握の方途の検討に時間を費やしたため、経費の使用が少なくなった。とりわけ、旅費の使用の減少と、聞き取り調査および資料収集後に必要となるデータ処理のための機材の購入先送りが大きく影響している。 聞き取り調査を含む現地調査については、次年度の実施頻度を上げることとする。機材購入についてもその進捗に即して行っていく。
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Research Products
(1 results)