2019 Fiscal Year Research-status Report
近世・近代の日本における「行き倒れ」とその救済の歴史的特質の究明
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18K00948
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Research Institution | The Institute of Buraku Problem |
Principal Investigator |
藤本 清二郎 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (40127428)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹永 三男 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (90144683)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 近世行き倒れ / 社会福祉政策 / 府県・町村役場文書 / 行旅病人・行旅死亡人 / 旅人病人継送り / 乞食・非人 / 救済 / 遍路・参詣 |
Outline of Annual Research Achievements |
①2019年8月4日、大阪歴史科学協議会例会「日本における『行き倒れ』と救済の歴史的展開」(クレオ大阪)で、代表者藤本清二郎が「近世『行き倒れ』の構造―貧困・身分(乞食・非人)・移動―」、分担者竹永三男が「近代における行旅病人・行旅死亡人の歴史的研究の課題・史料・方法」を発表した。同年10月27日、部落問題研究者全国集会「行き倒れからみる近世社会」(同志社女子大)で、藤本が「近世芸備地方の移動と行き倒れ」、協力者塚田孝が「道頓堀周辺の非人行き倒れ」、同町田哲が「行き倒れへの着目と課題─四国遍路研究の立場から─」を発表した。この他の研究例会で、藤本が2020年2月15日「近世信州善光寺門前の行き倒れ」、同19日「近世信州善光寺門前の行き倒れとその対応―19世紀段階『移動』の特質―」を、竹永が2019年12月7日「1920年代~戦時下の東京における『行き倒れ』」を報告した。 ②前近代の関連事象について、坂江渉「黒田俊雄・熊野聡両氏の『孤絶した個人』論と日本古代の『在路飢病者』の救済」(12月7日)、高野信治「近世〈障害者〉の行方─実態研究の試み」(2月15日)、近世・近代関連の中川未来「1860~80年代の『脱籍無産之輩』統制と四国遍路」(11月23日)。現代関連の鈴木忠義「生活保護法・墓地埋葬法・行旅病人及行旅死亡人取扱法の関係について」(5月11日)、篠原史生「救護法制定後の京都市における精神病者処遇の実態」(1月13日)を得て関連領域との接点を確認した。また大杉由香代表基盤研究(C)「子どもの命と人権に関する地域史研究」との合同研究発表会(コロナ禍でメール、3月26日締め、その後討論)を開催し、研究交流を進めた。藤本が「近世善光寺周辺の行き倒れと捨子」を、町田が「国境番所の存在形態と通行統制」を、竹永が「近代の『行き倒れ』人の子どもと子どもの『行き倒れ』」を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①藤本は、播州地域の事例研究で案出した「近世『行き倒れ』の構造モデル」を元に、紀州の事例研究(幕府法受容の政治経済分析)を加え、芸州の法と実態を究明した「近世の行倒片付・旅人病人対策の法的展開」を発表した。実態分析の「近世芸備地方の移動と行き倒れ(病人・死人)」も掲載予定。さらに「近世『行き倒れ』の構造」が、19世紀に天保飢饉を経る中で新たな展開を示すこと、つまり永続的に移動する「修業」(物乞い)を伴う貧困層の大量出現、往来手形の無実化も進行することを西日本の事例研究で確認した。この点は大阪歴史科学協議会例会で報告したが、「近世『行き倒れ』の構造と展開」としてまとめ、『歴史科学』近号に掲載予定。また中部地方の信州(善光寺とその周辺)と奥州を対象に3度の史料調査と研究報告を行い、西日本との共通性や移動の拡がりを確認した。なお奥州の分析は未着手である。 ②竹永は、行旅病人・行旅死亡人関係行政文書の収集を、京都府庁文書について進め、研究協力者・小川信雄による初年度の報告で得た関東地方(埼玉県・千葉県)の行政文書情報と合わせて、現時点で確認できる戦前期の全国各府県・町村役場文書中の当該文書の収集・整理・確認をほぼ終了させた。また、京都大学文学研究科での集中講義(2019年9月)での既往の研究成果の総括的報告を通して単著『「行き倒れ」の近代史』刊行の準備を進めた。『歴史科学』に「近現代の「行旅病人」「行旅死亡人」の内実と「行き倒れ」人数の男女差」を掲載予定。③研究協力者町田は遍路の研究、塚田は大坂の非人の関する論文を発表した。また招聘報告により、近現代の法と行政構造、明治期四国遍路の統制と実態、古代「在路飢病者」の救済、「個人」の意義、近世「障害者」の実態、および子どもの生存・福祉における近世と近現代の断絶・連続について示唆を得て、幅のある「行き倒れ」研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
①近世の「行き倒れ」については、現在確保した事例および到達した論点を、「国家と個人・地域」という視点から学術的意義を整理、検討する。同時に、中部地方信州と奥州に関する史料調査・分析をさらに進め、論文化を図る。中国地方福山藩領の史料(広島県立文書館所蔵史料群)の分析を深め、報告および論文化を図る。 ②近代の「行き倒れ」については、府県・町村役場文書の収集・整理・確認をほぼ完了させたことを承けて、ⅰ)これまでの研究で空白に近かった町村役場の「行き倒れ」対応実態の分析を行い、府県の対応と付き合わせて行政対応の全過程を解明するとともに、ⅱ)未解明であった戦時下の「行き倒れ」の実態を収集済みの東京都公文書館所蔵文書の分析に基づいて行い、戦前期を通した「行き倒れ」実態の究明につなげる。 ③研究協力者の参加を得てより幅の広い議論をするとともに、他の科研費プロジェクト(基盤研究(C)「こどもの命と人権における地域史研究」研究代表者大杉由香)とさらに交流を深め、現在の福祉行政と「行き倒れ」の関係を、生活保護法等を素材として分析する。そのための合同研究会を実施する。 ④研究期間の最終年度であるので、藤本は近世論文集単著の刊行計画を練り、収録原稿を準備する。また竹永は近現代の単著論文集『「行き倒れ」の近代史』を年度内に刊行する。さらに、日本近世・近現代の「行き倒れ」の特質解明のために、研究協力者の協力を得、かつ一昨年終了した基盤研究(B)「行き倒れに関する国際的比較地域史研究─移動する弱者の社会的救済・行政的対応の分析-」(研究代表者藤本清二郎、2015~2017年)の成果を再検討し、それらの成果を含んだ論集を刊行し、6年間継続した研究の総仕上げとする。
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Research Products
(17 results)