2019 Fiscal Year Research-status Report
日本古代における庄の特質と実態の研究 ― 荘園研究に対する新しい視角の提示 ―
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18K00953
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小倉 真紀子 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (30609897)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 荘園 / 庄 / 墾田 / 土地 / 日本古代 / 東大寺領 / 東西市庄 / 交易 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本古代の諸史料に見られる「庄」について、特に、従来の荘園研究では捨象されてきた農地ではない「庄」にも目を向けて包括的に検証し、その本質と実態を解明することを目的とするものである。令和元年度は、①墾田永年私財法発布の前後における「庄」の実態はどのようなものであったか、②「庄」の経営方式にはどのような特徴が見られるか、それは先行研究で指摘される初期荘園の経営方式に見直しを迫るものであるかどうか、を中心に研究を進めた。①については、主に『大日本古文書』所収の文書を用いて検証した。②については、天平勝宝6年(754)~天暦4年(950)の史料が残る東大寺領東西市庄を具体的な事例として選び、考察した。その結果、明らかになった点は以下のとおりである。 (A)文書等に見られる「庄」は、倉屋などの建物を伴う私的領有地である。これは、農地とは限らない。穀物の収納や物品の調達・運送など、領主の経済的な活動拠点として機能した。庄が農耕の拠点として設けられる場合には、農地も庄に含まれる。 (B)墾田永年私財法施行の前では、庄に含まれる農地は、収公の必要がない限られた範囲の土地である。墾田永年私財法の施行後、大規模な野地(開墾予定地)・墾田を含む庄が成立するようになる。だがこれは、新しい類型の庄が突如として現れたのではなく、従前から存在する庄に「墾田」という要素が加わったものと解すべきであり、庄の経営方式に大きな違いはない。 (C)農地を含まない庄は、墾田永年私財法の施行後も存続した。これらの多くは、交通や商品流通に至便な土地に設けられ、交易や輸送の拠点として機能した。東大寺領東西市庄もこれに該当する。領主から現地に領もしくは使者が派遣されて庄の用務に従事する、という庄の経営方式は、墾田の有無に関係なく認められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書の「補助事業期間中の研究実施計画」に記載した、当該年度に行う予定とした内容に概ね沿った形で研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、3年目となる令和2年度は、前年度に引き続き「「庄」の経営方式にはどのような特徴が見られるか、それは先行研究で指摘される初期荘園の経営方式に見直しを迫るものであるかどうか」という点に焦点を当てて研究を進める予定である。 また、最終年度のまとめとして、3年間の研究成果を踏まえ、日本古代の荘園研究に対する新しい視角を提示することを試みる。
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Causes of Carryover |
当初使用する予定であった国内旅費のうち、法制史学会と木簡学会への参加を見送ったため、それに充てる見込みであった金額が当年度の未使用金額となった。 この金額は、次年度において図書の購入費に充てる予定である。
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Remarks |
本研究に関係する造東大寺司について一部触れた研究業績として、「橘奈良麻呂の変」(佐藤信編『古代史講義【戦乱篇】』(ちくま新書(筑摩書房)、2019年)第8講、pp.143~154)を執筆した。
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