2018 Fiscal Year Research-status Report
宮崎家所蔵資料の整理・公開・保存に向けた基礎的研究
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18K00958
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福家 崇洋 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (80449503)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 宮崎滔天 / 吉野作造 / 北一輝 / 白蓮事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究報告から述べれば、2019年10月16日に京都大学人文科学研究所「近代京都と文化」研究班で「「白蓮事件」再考」を報告した。「白蓮事件」は、1921年10月、福岡の実業家伊藤伝右衛門の妻で歌人の柳原白蓮(伊藤燁子)が滞在先の東京で出奔し、宮崎龍介と駆け落ちした一見を指す。この事件は現在テレビ、小説などを通じて知られているが、歴史研究はほとんどなく、イメージのみが先行している状況である。この報告では、未引用の宮崎家所蔵資料を用いて、史実を丹念に検証しつつ、宮崎龍介(滔天の長男)が関わる学生運動の諸相も組み入れて、白蓮を中心に描かれる「白蓮事件」を描き直した。 次に論稿である。ひとつ目は『吉野作造研究』15号(2019年4月刊行)に投稿した「史料紹介 宮崎家所蔵吉野作造書簡」である。内容は吉野作造から宮崎滔天・龍介にそれぞれ宛てた書簡2点で、いずれも未公開のものである。まず1通目について。吉野と滔天はともによく知られるが、両者の関係はほとんどわかっておらず、本書簡は短信ながら交友の一端を垣間見ることができる貴重な資料である。内容は中国革命運動家・黄興の書をめぐるものである。次に2通目について。吉野と龍介の関係は新人会の研究から明らかになっているが、今回の書簡は、1926年に明治文化研究会から復刊された滔天『三十三年之夢』に関するもので、刊行にいたる経緯が把握できる内容である。 二つ目の論稿は、『ことたま』87巻11号、88巻2号に掲載された「宮崎滔天と北一輝」(上・下)である。『ことたま』は柳原白蓮が創刊した雑誌で、今回宮崎家からの執筆依頼で掲載が実現した。宮崎家所蔵の北一輝関係資料は『宮崎滔天全集』3、5巻に口絵写真として掲載されていたが、この資料を分析することで、革命と信仰を介した両者の交友の一端を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、宮崎滔天・龍介研究、および日中交流史研究の土台を再構成することである。以下、資料の整理・保存・公開に分けて進捗状況を説明する。まず整理について。1年目は宮崎滔天関係資料に焦点をあて、とりわけ書類に絞って、宮崎家において資料整理を試みた。その際、留意したのは『宮崎滔天全集』に収録されているか否かである。宮崎家の所蔵資料を確認したところ、全集未収録資料の所在が明らかになった。その多くは滔天が浪曲家となっていた頃の浪曲直筆原稿であるが、他の滔天関係書類(「我師桃中軒雲右衛門」「露国革命血髑髏 目次」「〔仮題〕革命評論社収支簿」「〔仮題〕滔天葬儀関係書類」)も確認できた。浪曲原稿は『三十三年之夢』の一部と重複箇所があると考えられるが単体での資料としては全集に収録されていない(ただし息子の震作関係の可能性もあり)。これらの原稿は、滔天研究において貴重であるばかりか、彼が関わった革命運動がフィクションとして再構成されており、興味深いものが多い。これらの直筆原稿は現在、アルバイトを雇用して翻刻中であり、所蔵者許可のもとで、可能であれば貴重なものを公開したい。また、全集には写真のみ掲載されていた北一輝関係資料もあったため、内容を分析のうえ、「宮崎滔天と北一輝」(上・下)(『ことたま』87巻11号、88巻2号)として発表した。次に保存である。中性紙箱・封筒を購入して、劣化資料、破損資料の保護を行った。最後の公開については、先述の通り、滔天直筆原稿を翻刻のうえ公開を予定しているほか、成果として公開したものは「研究実績の概要」を参照のこと。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について以下、対象と方法に分けて述べる。まず対象について。1年目は宮崎滔天に焦点をあてて、『宮崎滔天全集』の未収録文書の割り出しとその公開、あるいは分析に力点を置いて作業をしてきた。この公開作業は昨年度に引き続き今後も行っていく。 2年目については滔天に焦点をあてながら書簡関係の調査を予定している。『宮崎滔天全集』には滔天が書いた書簡は翻刻され、収録されている。しかし、滔天に宛てられた書簡は未収録で、その概要もわかっていない。まずその概要を把握したうえで、貴重と思われるものを翻刻し、所蔵者許可のもとで、可能なものは公開していきたい。その際、個人情報保護も留意する。吉野作造書簡は先行的に翻刻のうえ公開したが、これをパイロットモデルとして引き続き作業を行う。2つ目は、滔天関係の写真である。1年目の調査で、明治期以降の貴重な写真が数多く残っていることが明らかになったため、デジタル化して保存しておく必要があると考えた。これも下準備の上で、今年度中に作業を行う予定である。 次に方法について。これは前年度と同様である。宮崎家に調査に伺ったうえで、資料を整理して目録化し、劣化資料は中性紙封筒などで保存し、研究史上貴重なものは所蔵者許可の上で、資料紹介や論文執筆を試みたいと考えている。 引き続き、以上の基礎研究を通して、宮崎滔天・龍介研究、および日中交流史研究の活性化に貢献できればと考えている。
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Research Products
(4 results)