2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K00963
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
西別府 元日 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 名誉教授 (50136769)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 公卿勅使 / 駅家雑事 / 古代駅家 / 古代官道 / 吾妻鏡 / 六波羅飛駅 / 宿 / 国司 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題と手法からみれば、緊急事態宣言発出による移動自粛や所属研究機関図書館の入館禁止措置という最悪の条件から始まった本年度は、課題追究の素材となる「駅家雑事」「公卿勅使」などが展開する美濃・近江・伊勢などの令制国や東海道における交通上の要衝について既刊の出版物をとおしての理解を深める作業から出発したが、いくつかのフィールド調査の対象・視角を見出すことができた。コロナ感染第1波が下火となった6月下旬以降、条件付ながら図書館活字史料他の刊行物も利用可能となったため、関係資史料の確認・点検・整理や問題意識が整理できてきた諸地域の考古学的情報の確認などを進め現地調査の準備を進めた。しかし、7月末から8月上旬には岐阜県や三重県での独自の「第2波非常事態宣言」、広島県「積極ガード宣言」などで移動自粛が再度要請されるようになり、古道跡の踏査や関連遺跡の現地調査などが比較的可能になったのは9月頃からであった。同じ時期、鳥取市では山陰自動車道工事に伴う埋蔵文化財調査が進展し、これまでほとんど調査事例がない山稜越えの古代官道遺構と推定される遺跡(青谷養郷遺跡)が検出された。山稜越えの道路遺構は古代官道のあり方を大きく規定することから、調査機関による研究者対象の現地説明会に参加して数多くの示唆を得たが、他方でその後の身体的活動を大きく制約する事態におちいるとともに、コロナウィルス感染拡大がさらに深刻となったこともあって、11月以降は上記の調査研究活動から文献調査へ方向転換を余儀なくされることとなった。改めて鎌倉時代の交通通信システムに関する研究書を読み直すとともに、基本史料ともいうべき『吾妻鏡』を通読して関係史料の確認・収集をおこなったが、駅家雑事・公卿勅使等の関係記事を新たに拾遺するとともに、京・鎌倉の交通体系に国司を拝命した御家人や国衙機構との関連を再検討する必要性を痛感している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
古代律令国家を支えた古代交通体系である古代駅制の衰退・終焉から、中世交通体系の要である各地に登場した「宿」(以下「中世宿」と略記)の形成・展開過程をさぐり、中世宿を結ぶ中世の主要街道と古代の駅家を結ぶ古代官道の異同を追究・検討するなかから、交通体系の変化とその背後に存在する「国家」的理念、地域社会の課題とその変容を歴史的に考究するという問題関心のもと、全体を文献を中心とした歴史学的検証工程とフィールドワークを核とした歴史地理・歴史考古学的検証工程に区分しながら課題研究を進めてきた。しかし採択をうけたのちは、初年度の西日本豪雨災害、第2年度第4四半期以後のコロナウィルス感染拡大についての緊急事態宣言発出等にともなう事態のなかで、若干の遅れが生じていたが、本年度はヒト・モノの移動や中央集権的物流の具体相を文献史料から追究する歴史学的検証の核である史料調査と、古代の駅家と中世の「中世宿」を対比的に考究しながら地域の課題と変容を追究する地域史的研究の核となるフィールド調査がともに、コロナ感染拡大第2波・第3波への対応としての「移動」自粛や「3密」回避を主眼とした文献・史料架蔵機関の休館・入館停止や予約制などによる利用制限、所属研究機関の対応方針の遵守などによって、ほとんど実現できなかったことが最大の要因である。その間、自己で所蔵している基本史料のほか、手元にない活字化された文献資史料の購入などによって補充・補完を試みたが、隔靴掻痒の感は免れず、フィールド調査の原資となるべき遺跡等の調査報告書などの閲覧も十二分に実現することができなかったため、全く立ち遅れと判断せざるをえない状態となってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
第4年次にあたる2021年度における研究上の最優先課題は、過年度に生じさせてしまった計画の遅れをとりもどし、申請当初に設定した軌道への復帰と目標達成を可能にしうる段階まで状況を再構築し、そのための準備をすることであると考えるが、それは「概要」と「進捗状況・理由」両欄で述べた「移動自粛」という県外地域への学術調査等の出張制限、各地の図書館・研究施設等の利用制限が解除されるか否か、すなわち新型コロナウィルス感染状況の鎮静・終息化の如何にかかっていると考える。2021年度7月末には、研究代表者の世代へのワクチン接種が完了するとされているが、執筆依頼されている地方自治体の文化財調査報告書への掲載原稿の提出締切も7月末なので、8月以後は、前年度に実現できなかった諸事項の遂行や'20年度の文献調査等によって新しく浮かびあがってきた問題点についての検討・検証を精力的にすすめたい。すなわち「駅家雑事」の理解に不可欠な大井・茜部両荘の現地調査や荘内における「宿」施設登場の意味などを勘案した課税・徴集システムの検討、従来の研究では無視されてきた「公卿勅使」について交通史的観点からの検討や、『吾妻鏡』にみえる鎌倉幕府のかかわり方をふまえた理解の深化、'20年度に「駅家」から中世宿への注目すべき転換地として抽出した矢作川周辺地域や埋蔵文化財調査等によって「宿」形成の可能性が指摘されている近江南部地域の「駅家」跡地域などの踏査や文献収集などの調査・研究、『吾妻鏡』通読でうかびあがってきた諸国々衙の交通施策とそれへの鎌倉幕府・御家人の関与の如何などがあげられる。こうした諸課題追究の前提として、'15年度報道分までは実施を終えている駅家跡や「宿」遺跡の可能性をもつ遺跡についての情報収集をおこない、踏査・考究すべき「地域」の対象地を増やしつつ、申請当初の目標到達への階梯をすすめておきたい。
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Causes of Carryover |
初年度の西日本豪雨災害にともなう鉄道利用システムの悪化、2年度3年度における新型コロナウィルス感染拡大による「旅行自粛」や学会・研究会の「オンライン開催」などによって予定していた現地調査・出張等をほとんど実施できなかったことと、情報や資料を収集・確認するための拠点になる所属研究施設(大学付属中央図書館)での代表者による閲覧が制限されるとともに、雇用すべき人員の手配・確保ができなかったため、謝金等が未執行となった。このように、今回の研究助成申請が採択されて以後、十分なフィールド調査・文献調査が実施しきれていないので、今年度は国立公文書館や東京大学史料編纂所等の文献架蔵施設の開館(閲覧再開)などを待って、基本文献資料の確認的調査を実施するとともに、滋賀県・岐阜県・愛知県・三重県などの公立図書館における各県の埋蔵文化財調査事業報告書や地域文献の閲覧などをとおして「宿駅」関連遺跡の抽出や現地のフィールド調査などを実施したい。また、上記の「宿駅」関連遺跡の情報収集の予備的調査として、所属研究機関付属図書館に架蔵してもらっている月刊情報誌を検索する作業を、院生・学生に依頼(コロナ対策で名誉教授等の図書館における長時間の閲覧作業は「自粛」を要請されているため)して、実施したい。
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