2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00963
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
西別府 元日 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 名誉教授 (50136769)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 部民制 / 中世山陽道 / とはずがたり / 大神宝使 / 駅家雑事 / 公卿勅使 / 宇佐使 / 一国平均役 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度も、コロナ感染症の流行にともなう社会的移動の制限のなか、当初の研究目的を実現するにはきわめて困難な状況に陥っている。とりわけ、史料調査の対象となる東京等への移動、現地調査の対象となるべき、愛知・京都・大阪など東海近畿地方における非常事態宣言の発出・継続は4月から9月に及び、若干のズレはあったが広島県も同じで高齢者ゆえに、県外の移動は全く自粛せざるをえない状態であった。 宣言が解除されたのちは、学会・研究会へのオンライン参加の一方で、前年度以前の研究計画の一部を見直して、より居住地に近接する中国地域における交通路の歴史的変遷を考えることを目的に、中国山間地における古代寺院跡と地域間交流にかかわる研究の成文化につとめた。その結果、中世・鎌倉後期の紀行文である『とわずがたり』に記載される中国地方山間部と岡山県高梁川流域との交通路が、古代さらには大化前代以前の交通路が継承されている可能性が極めて高いこと、また中国山地山間部を東西に結ぶ物資の移動や人間の交流の経路が想定され、さらに、部民制の展開を勘案するならば山間部の各所と対応するかたちで内海沿岸部の地点とが設定されていた可能性があるものと判断できるようであった。その具体的な経路を踏査等によって確認する必要があるが、この点は12月以降の中国地方における第6波コロナ感染拡大もあり、実施しえていない。 また、現地調査が実現できないため、今年度は文献史料の再読を研究計画に加えて、『中右記』『吾妻鏡』『鎌倉遺文』などの調査にあたったが、それぞれの事象・事態の掌握が難しく、また記事自体も断片的な記述が少なからずあり、記事がしめす地域の交通路の実態掌握が不可欠であることを痛感しているところである。その意味では、当該地域での関係資料の収集や現地踏査が不可欠なことや、実態的な供給・役馬の調達、宿泊施設の様相を痛感させられている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究計画に述べた、考古学的データーを活用しつつ、古代交通路から中世社会の交通システムの変化を考えるという方向性は、課題研究初年度の西日本豪雨による交通大系の寸断や第2年度終半以降のコロナ感染拡大阻止にともなう移動の制約のなかで、理想とする研究活動が実施できずに、大きな痛手をうけている。データーの基礎的収集の手段としていた新聞報道等を収集する作業は、その担い手として構想していた院生。学部上級生が、出校停止などとなり依頼する対象を確保できない事態がつづき、その実施ができたのは本年3月であった(一部、該当資料の架蔵が確認できなくなっておりその部分は未実施である)。 課題追究のために、コロナ感染防止などのための移動の制約などのなかで、考古学的データーが収集しやすい広島県地域に具体的な検証対象を変更しつつなかで、交通路の歴史的推移という観点からいえば、一定の成果を重ねていると考える。しかし、そこでは、結果としての実態が把握できるという限定的な側面が把握できているにすぎないともいえる。そのため、コロナ感染拡大にともなう移動の制約のなかで、国家的交通大系の検討という視点を加味するために、公卿勅使や駅家雑事というような、国家的意思が反映されやすく、そのシステムも把握しやすいと思われる事例を文献史資料から抽出して、その実態的検討のなかから検証する方向を模索し、またその対象も拡大しているが、時間的な制約・記載内容の非実態性もありなかなか進展しがたい状態である。進捗状況がかなり遅れている原因は、ひとえに移動の制限にともなう現地調査の未実施などにともなうものであり、できることならば、期間延長などの方法によって、当初の課題である中世社会の主要交通路となる東海道・東山道などの一部だけでも、現地踏査を実施しつつ、中世社会の交通大系が維持されているシステムを究明したいと考えているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題研究は、2018年4月のスタート直後から、西日本豪雨にともなう居住地周辺の鉄道交通体系の寸断等にともなう移動の停滞、2020年3月からのコロナウィルス感染の6波におよぶ非常事態宣言の発出や蔓延防止措置の執行によって、公共交通機関等を使用した移動、とりわけ県外をこえる移動については自粛がもとめられてきたこと、また学生・院生の登校の停止その他にともなって研究補助者の確保も困難ななかで、科学研究費補助金申請時に構想していた、畿内と東国をむすぶ交通路である東海道・東山道という交通路について、歴史学的検証工程と歴史地理学・歴史考古学的検証工程の複合的な検証をとおして、中世交通大系の軸となる「宿」成立や、その生成過程における国司(受領・知行国主)の関与を検証していくという研究計画についての大幅な見直しがもとめられてきたと考える。 そのため20年度から、検証の対象に山陽道・山陰道など加えるとともに、踏査など具体的な調査・研究活動は広島県内に移し、分析の方法などにも手直しをくわえながら、古代中世移行期の交通路の変遷を考究する一方、再度、研究計画作成時の原点に立ちもどって、『小右記』・『中右記』などの平安期中後期の文献資料や『吾妻鏡』等の鎌倉期の文献資料などから、当該期の交通体系追究のキーワードとなると想定していた「公卿勅使」「駅家雑事」など語彙のみならず「大神宝使」や「宇佐使」など朝廷からの派遣使節の事例や、これとは真逆なベクトルをしめす「相撲人」の上洛・帰郷時の交通大系の利用実態を示す記事などを抽出しながらまとめの方向を模索するとともに、コロナ感染状況の如何によっては、課題研究の延長を申請して、当初の課題としていた東海道・東山道についての考古学的検証工程や歴史地理学的検証工程も実験的に実施して、研究方法の萌芽的な確立をめざしたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
大半は、自然災害にともなう交通体系の混乱やコロナ感染拡大にともなう移動の自粛などの社会的要因が大きく、関東・関西における資史料の調査・収集や、東海(三重や愛知)・東山(滋賀・岐阜)等の現地調査等が実施できなかったため、旅費や複写費等の未使用などが生じたことよるものである。とりわけ、19年度終盤からの6波におよぶ、コロナウィルス感染拡大によって、公共交通機関を利用しての県外への移動を自粛せざるをえない状況に追いこまれたため、現地調査や文献資料の収集などが不可能となり、これらに要する旅費・謝礼・複写費等をほとんど執行できなかった。また、基礎的データーの収集に資するための人件費等も、その主要な雇用の対象である学生・院生が出校停止などで、その募集さえままならず、雇用の手立てがうまく設定できず、昨年度最終盤まで執行できなかったためである。今年度は、データー収集等については早めに雇用対象の院生・学生との調整をはかるとともに、とりあえずは「今後の研究の推進方策」に述べたごとく参考事象の多様化や、検索文献史料の拡大を図って坐学的追究を中心的に推進して、学会等での報告をめざしたい。また、コロナウィルス感染状況の如何によっては、現地資料やデーターの収集、現地の踏査等にあたるとともに、許されるならば、研究期間の延長を申請し、複数の重要地点の調査・踏査や、基礎資料の収集などに勤めたいと考えている。
|
Research Products
(1 results)