2018 Fiscal Year Research-status Report
Studies of the Unpublished Historical Accounts of the Babylonian Astronomical Diaries
Project/Area Number |
18K00987
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三津間 康幸 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (00568280)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アッカド語 / 楔形文字 / シリア語 / オーロラ / アッシリア / エサルハドン / ホロスコープ / バルダイサン |
Outline of Annual Research Achievements |
まず日誌-90Cの内容をバビロニアの占星術文書や、後3世紀の思想家バルダイサンの占星術観を示すシリア語資料『諸国の法の書』にパラフレーズされたバビロニア占星術由来とみられる天文前兆占いと比較し、この日誌が占星術的な関心から作成されたことを解明した。さらにアッシリア・バビロニアの占星術文書(天文前兆占いの集成『エヌーマ・アヌ・エンリル』、アッシリア王エサルハドン宛の天文学者・占星術師の書簡、ホロスコープ、『諸国の法の書』など)を分析し、日誌の背景にあるバビロニア天文学・占星術の死生観を明らかにした。また日誌の作成や楔形文字、アッカド語による(天文)文書の作成そのものが途絶えた後に上部メソポタミアで作成された『諸国の法の書』の占星術関連の記述を分析し、バビロニア天文学・占星術の後代への伝播の問題を考察した。またアッシリアやバビロニアの天文学者・占星術師を重用したエサルハドンから息子アッシュルバニパルへの王位継承の確実を期してアッシリアの要人達に配られた『エサルハドン王位継承誓約文書』の研究に対する書評を行い、同文書に登場する語句「あなた方の神」の解釈に関する問題への提言などを行った。 さらに、日誌に散見されるSUDという、月食や、オーロラと考えられる夜の虹の色を表す楔形文字について、「琥珀」を表すとみられるアッカド語elmesuに対応するシュメログラムSUD.AGの略と考え、月食や夜の虹の琥珀色を示すものと主張する論文をラザフォード・アップルトン研究所(英国)の早川尚志氏と共著で発表した。また未刊行の日誌粘土板BM35269+の中に「長老会と呼ばれる市民たち」という一句があり、アルシャク朝時代バビロニアの「長老会」がギリシア・マケドニア色の濃い「市民」を成員としたことは、すでに2015年に出版した日本語論文で明らかにしたが、今年度はそれを英訳、加筆修正した論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究は、これまで主に天文学的な関心のもとに作成されていたと考えられてきた後期の日誌の一部に、占星術的関心のもとに作成されたものがあったことを明らかにした点で、天文日誌研究上、画期的な成果を挙げたといえる。さらにバビロニア天文学・占星術の死生観、天文観、後代への伝播の問題などを幅広く解明し、バビロニア天文学・占星術のパトロン的立場にいた王エサルハドンの宗教観にまで切り込んだことにより、今後の日誌研究、特にその思想的背景の解明のために有用な知見が得られたといえる。 また日誌に見られるSUDという解釈困難な楔形文字の意味を考察して一定の結論を出したことは、今後の日誌の解読作業にとって有用である。 未刊行の日誌粘土板に関する論文は、日本語で発表したものの英訳版であるが、改訂を加えて学問的価値は高められている。英文で発表したことによって世界の研究者に、アルシャク朝時代の「長老会」が市民を成員としていたとの知見が幅広く共有されることになり、日誌や日誌が書かれた紀元前1千年期後半のバビロニア史の研究に大きく貢献するものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度以降は、研究代表者が大英博物館で撮影した日誌およびその関連資料の粘土板を詳細に観察し、未刊行の日誌粘土板の中からさらなる歴史記録の発見に努め、それを解読のうえ公表する。また未刊行の年代誌粘土板などが発見されれば、それも解読のうえ公表する。
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