2018 Fiscal Year Research-status Report
The 1923 Constitution and Constitutionalism
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18K01010
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Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
池田 美佐子 名古屋商科大学, 国際学部, 教授 (80321024)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エジプト / 憲法 / 立憲主義 / 独立 / イギリス / ワフド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エジプト1923年憲法の成立をこれまでの既存研究で行われた民族主義的な観点ではなく、立憲主義の観点から再検討することを目指している。本年度は、まずは同憲法を正確に理解するために、憲法の逐語的な翻訳を行った。ついで、調書で示した3つの具体的な目的のうち、1923年憲法の成立における立憲主義者の主体的関与について資料を収集し、分析を行った。 同憲法の逐語訳については、本報告者が所属する公益財団法人・東洋文庫の現代イスラーム研究班の憲法翻訳プロジェクトとの協賛において実施した。単に機械的に翻訳を行うのではなく、各条項の意味を検討すること、さらに日本語の法律用語に照らしてできるだけ正確な翻訳に努めた。この成果は今後、東洋文庫のウェブサイト上に掲載する予定である。 翻訳作業と並行して、憲法制定を前提としたエジプト独立を巡る立憲主義者の主体的関与の解明も行った。ネット上でアクセスできる関連のイギリス公文書資料を調査後、エジプトのアメリカン大学において、イギリス関連の資料やエジプト人立憲主義者に関する二次文献および手記などを調査し、可能なものは入手した。これらの資料によって、1922年2月のイギリスによるエジプトの「一方的独立宣言」は、エジプト立憲主義者が立憲主義に基づく議会の設置をイギリスとの協力の条件として実現したことがより詳細にわかった。 今後は、他のエジプト人の手記などによって、この経緯をさらに詳しく明らかにするとともに、ザグルールが率いるワフド陣営が完全独立を望む中なかで、どの程度立憲主義的な主張を展開していたのかも解明する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れている最も大きな理由は、本報告者が本研究課題の着手に先立って行っていた研究課題に昨年度の中盤まで時間を費やしたことである。そのため、本研究の本格的な始動が9月以降になった。ほかには、当初最初に予定していた立憲主義の思想的系譜を解明するための適切な資料が、予測とは異なりエジプトにおいてうまく見つからなかったことにも由来する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究を通して、エジプト独立に関する立憲主義者の積極的関与をより正確に理解するには、立憲主義に対するザグルールらワフド代表者の見解および在エジプトのイギリス官吏によるエジプト立憲主義の理解も把握する必要があることが判明した。そのため、まずはこれらの点の解明に取り組む。その後、当該テーマについての論文の執筆を行い、学会等で発表する。 次に扱うのは調書で述べた3番目のテーマ、つまり1923年憲法起草委員会における立憲主義的条項をめぐる議論の解明である。この研究で使用する資料は、東京大学東洋文化研究所に所蔵されている『al-Dustur』である。これには憲法の各条項に関する議論の過程が議事録として収められており、ここでは特に、国家規定、国民の権利、議会および国王の権限、議会と国王の関係を議論した条項を検討する。同憲法は、憲法制定委員会による最終案提出後、国王によって国王権限を拡大する修正がなされており、どの点を修正したのかを具体的に明らかにする必要もある。
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Causes of Carryover |
初年度に計画していたイギリスとエジプトでの資料調査をエジプトのみで行ったため。 次年度においては、資料調査をイギリスとエジプトの両方で実施する。
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