2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01013
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鷲尾 祐子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60642345)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 住民名簿 / 史料批判 / ライフイベント / 同居家族 / 性別 / 簡牘 |
Outline of Annual Research Achievements |
○湖南省長沙市より出土した三国呉の住民名簿(吏民簿)を史料として、結婚や分家などのライフイベント発生年齢の標準値を算出し、年齢の社会的制度的な意義を考察し、また人生の諸段階における同居範囲を検討することを課題とする。 ○元年は、吏民簿を史料化するための基礎作業(各簿を構成する諸簡の特定と史料批判)を行った。まず最も多数を占める徭役に関する集計を有する簿(a簿「竹簡参・七」の嘉禾六年小武陵簿・南郷簿、b簿「竹簡七・捌」の嘉禾六年都郷簿など)の編製目的について疑義が出されていたため、里の集計からそれを検討した。まず簡の出土位置から、各集計項目の配列を確定した。その上で里の集計は1,前の簿の総口数から死者数を引き現在の里の口数を確定する集計、2,総戸数から臨時の力役を負担しない戸の数を引き、次年度の力役の徴発対象となる戸の数を確定する集計、であることを確認し、これらが次年度の課役戸の調整に関する簿であることを確定した。 ○また、前掲abの吏民簿には、簿の年度について不明点がある。そこで、製作年次が明らかであり、a簿と同じ人物が同一年齢で記載されている例を含むが、異なる種類の簿である「竹簡陸」嘉禾五年小武陵郷簿(c簿)によって年度の考察に着手した。また、中国長沙の簡牘博物館で実見調査した。完全な復原が可能な二戸の諸簡を実見し、異なる示意図の諸簡だが同じ簿に属することを確認した。あわせて、この簿と同類の舂平里簿、およびab簿と同類の同年平樂里の簿を実見し、舂平里の新占戸の諸簡は、同一の機会に書かれたものであること、平樂里の表題と集計は記載者が異なること確認した。また、吏民簿は、原則的に単年度編製であると推測した。 さらに、郷・里という枠組みの検討のため、行政単位の可能性を有する「丘」ついて、呉簡の近隣で出土した「長沙五一廣場東漢簡牘」の例を通じて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
○本年度は、徴発関連の簿(前掲ab簿)の編製目的を確定した。さらに年齢情報の妥当性について確認するため、種類の異なる簿の間で生じている、年度が異なる簿であるはずなのに、同一人物につき同じ年齢が記載されているなどの、年齢のずれの理由について検討した。そして徴発関連の簿(前掲ab簿)については、単年度編製であることが確認できた。これによって年齢史料としての妥当性に関する疑義を、一つ解消することが可能になった。従来疑義があるところの年齢のずれについて、その理由を説明したことには大きな意義が存する。これらの検討とともに、「竹簡七・捌」都郷簿の集成、また「竹簡陸」所収簡の簿二種類を集成し、さらにこれらの中でも完全に復原することが可能な戸について復原した。 ○このように史料の検討と集成、個別の戸の復原については進めることができたが、得られた史料から年齢の意義に関する分析を行うことは、進んでいない。二年度は、得られた史料に基づき、年齢の意義の検討にまで踏み込みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、年齢情報の信頼性を確認するため、簿が基本的に単年度編製であることの検討を継続した。徴発対象戸確定集計を有する類の簿について、単年度であること、記載年齢は前年の簿のそれであることを確認した。しかし、何故前年の年齢が記載されているのかということについて疑義が存在するため、それについての説明を要する。このためには、同郷を記載対象とする別種の簿について、その特徴と編製目的とを検討し、あらためて徴発対象戸確定集計を有する簿と、それとの関連を探る必要がある。これには当然、別種の簿自体について、その編製目的と特性を検討し、史料として用いる準備を調えるという意義も存する。 また、吏民簿では一里の戸数が一律50戸であることが多く、戸が実体を反映しているか否かにも疑義が存する。これを解消するには郷里という枠組みの検討が必要である。郷・里と丘は、どのような単位であるのか、それについての考察を引き続き行う。 一方で、「竹簡陸」所収簿、「竹簡伍」の吏民簿諸簡(すでに集成した簿の一部)の戸を復原する。 その上で、諸簿の編製目的や特徴の相違を念頭に置きつつ、標準的な結婚年齢とその意義について再検討する。 本年は、新型コロナウィルス流行の影響で、日本からは中国に入ることが難しく、例年のように長沙簡牘博物館で実見調査を行うことは不可能になる可能性がある。幸いすべての竹簡の図版が出版され、竹簡については史料が出揃った。もし調査できなければ、これらの史料のデータベース化をすすめ、実見できない欠を補うとしたい。
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Causes of Carryover |
二月~三月に、バイトを雇用しデータベースを作成すること、海外で出版された高額な図書を購入することを予定しており、それぞれのために予算を残していた。しかし、コロナウィルス流行の影響で海外に行くことができず、バイトを雇うこともできず、図書も年度内に日本に届かなかったため、多額の残金が出た。 本年度も、現状では海外調査をおこなうことは難しい。先の年度より引き継いだ額と、夏の調査の費用とするはずであった金額とをあわせて、図版の画像化、史料のテキストファイル化、既存の釈文の修正などのため、バイトを雇用する費用にあてたい。あわせて、秋以降の状況を考慮しつつ、できるだけ一度は呉簡を実見調査する機会を設けたい。
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Research Products
(2 results)