2019 Fiscal Year Research-status Report
イギリス型チャリティのトランスナショナルな伝播に関する研究 1870-1950年
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18K01027
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金澤 周作 京都大学, 文学研究科, 教授 (70337757)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | チャリティ / トランスナショナル / セーブ・ザ・チルドレン / チャリティ組織化協会 / イギリス帝国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究で重視している二つのトランスナショナルなチャリティ団体のうち、セーブ・ザ・チルドレン基金(SCF)の活動と実態を知るために、海外での史料調査を行った。また、もうひとつチャリティ組織化協会についても、基礎的な調査を遂行した。 夏のロンドンでの調査では、主として次の成果があった。イギリス図書館(BL)において、第一次世界大戦期から戦間期にかけてのThe Charity Recordというチャリティ・セクターの業界誌を閲読した。戦時期には国内または味方の国々のさまざまな弱者救済をしていたことは分かっていたが、戦間期に入っても、急にトランスナショナルな機運が高まったわけでもないことが今回判明した。SCFの活動は、やはり当時にあっては非常に特殊であったことがうかがえる。また、イギリス公文書館(TNA)において、第二次世界大戦後の英領ソマリランドと英領マラヤにおいて、SCFが運営していた孤児院や感化院への支援をめぐり、イギリス本国政府と現地の諸主体の間でとりかわされた貴重なやりとりをまとめた一件書類を閲読する機会に恵まれた。 末期のイギリス帝国におけるチャリティが一種のトランスナショナル性を帯びることがうかがえた。これは、Matthew Hiltonが2018年にAmerican Historical Reviewで発表した論考において、1960年代のアフリカで、イギリス帝国時代のチャリティや行政の遺産に立脚して、「救済から開発へ」という大きな変容が生じたとする興味深い指摘とも符合する。また、チャリティ組織化協会の1935年の機関誌に「ファシスト的スラム対処法」と題する記事があり、イタリア・ファシズムを部分的に評価していたのは興味深い発見であった。 なおトランスナショナル・ヒストリーを考える上で不可欠の時代区分論について翻訳をし小論を書けたのは大きな成果だと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、途中で想定外の業務量の増加が生じたこともあるが、主としてセーブ・ザ・チルドレンの第二次大戦後の展開について興味を引く事案に遭遇したため、チャリティ組織化運動のアメリカ合衆国やドイツや日本への運動伝播については、当初計画していたほどには文献を集めて読むことができず、現地調査をする時間も捻出できなかった。かなり長くの研究費を次年度に繰り越したのはそのためである。とはいえ、全体としては、深刻な遅れを生じているわけではない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス問題の発生により、国内外の研究目的での出張が難しくなることが予想される。現時点では洋書の輸入についても相当な支障がでていると言われているので、平常時のように今後の研究の推進方策を策定することは困難である。ともあれ、前年度までに収集した文献と史料を元にして、地道にできることを進めていき、情勢が好転していくならば、そのつど、もとの計画に復帰していくつもりである。
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Causes of Carryover |
想定外の業務量増加による多忙化と、夏の調査によって得られた史料の読解に時間が取られたため。情勢が許すならば、この遅れを取り戻すため、助成金を適正に執行できる。
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Research Products
(1 results)