2021 Fiscal Year Research-status Report
リンツ領邦学校から見る近世ハプスブルク君主国の統合に関する研究
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18K01029
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石井 大輔 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (10588388)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オーストリア史 / 中・高等教育 / ギムナジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、主に19世紀前半のハプスブルク君主国における「中・高等教育」機関に関する法令や報告書を把握することを目指した。一次史料としては、当該時期に君主国内(オーストリア及びボヘミアハンガリーを除く)に存在したギムナジウムに関する報告書をを参照した。報告書の内容は、①各ギムナジウムの教職員、②生徒数、③提供されている教科、④各ギムナジウムの進捗状況やその阻害要因、⑤教員の顕著な業績(出版物)、⑥賞罰、新たな法令や命令、⑦授業をより良くするための事例となっている。この報告書によって、君主国全体のギムナジウムの全体像を把握するとともに、当研究の対象であるリンツ・ギムナジウムの特徴を知ることができた。 二次文献についても19世紀前半のギムナジウムについて調査を行った。君主国内の学校制度は、18世紀を「勃興期」とすれば、19世紀前半はまさに「過渡期」と言える状況だった。というのも、「初等教育」が確立されていく中で、ギムナジウムは大学との間で板挟みになっていた。元来、ギムナジウムは貴族身分を中心とする富裕層が通う学校だったもので、ギムナジウムの教員は学術的な貢献を求められていた。つまり、ギムナジウムは教育機関であるのと同時に、大学が持っていた学術研究機関の役割も担っていたのである。したがって近代的な学校制度において、ギムナジウムがどのように位置づけられるかが問われることとなった。果たして、ギムナジウムは教育機関なのか、それとも研究機関なのか、そもそも「中等教育」とは何なのか。結果として、ギムナジウムには「大学の準備学校」としての役割を付与されることになるのだが、依然として、学術研究機関としての役割がなくなったわけではなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた、現地での史料調査を実施することができず、19世紀以降の史料について調査を行うことができなかった。このため、入手可能な刊行史料をもとに研究を進めたが、リンツ・ギムナジウムに関して、詳細な情報を得ることができなかった。したがって、とりわけ近代以降のリンツ・ギムナジウムについての研究が滞っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、領邦上オーストリアに存在したリンツ・ギムナジウムが、貴族を中心とする聖俗エリート層の育成においてどのような役割を果たしたのかを明らかにし、領邦上オーストリアの発展やハプスブルク君主国の統合とどのような関係があったのかを検討する。具体的には19世紀前半という国家による学校管理が強化された時期において、リンツ・ギムナジウムにどのような者が入学し、卒業後どのような活動をしたのかをデータとして明確にし、彼らの活動範囲が領邦に留まるのか、それとも君主国全体に及ぶのかを調査を行ったが、そのデータの取りまとめ作業を行う。さらに、前年度までの研究成果である、リンツの領邦学校(イエズス会ギムナジウム)が16世紀から18世紀までどのような組織的変遷を辿ったのか、その原因となった中央からの「中等教育」改革が何を意図していたのかということと、19世紀以降のリンツ・ギムナジウムに関する研究成果を統合することで、近世から近代に至るリンツ・ギムナジウムについて考察を深めていくことを目指す。このことによって、これまで顧みられることがなかった地方の「中・高等教育」が持つ役割や意義が明らかとなり、国家による教育の中央集権化を相対化することができると考える。
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Causes of Carryover |
当初予定していた現地での史料調査を実施することができず、実際の使用額が減少した。今年度も現地での史料調査の可能性を探るが、実施が困難な場合は、図書購入などに充てる予定です。
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