2020 Fiscal Year Research-status Report
近世フランス都市における記憶の管理と都市エリート:リヨンの都市議事録が語ること
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18K01030
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小山 啓子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (60380698)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 近世フランス史 / リヨン / 外国人 / 同郷団 / フィレンツェ人 / 結社 / 祝祭 / 恩赦 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は主として論文の投稿2点と概説書への掲載2点の成果発表を行った。 16世紀リヨンにおける外国人の移入とそれに伴う都市空間の変容について、ヨーロッパ国際都市史学会で行った発表原稿をもとに論文"Les immigrants et l’espace urbain de Lyon au XVIe siecle: une colonie Florentine de Lyon"を執筆し、French Studies (Oxford)に投稿した。本論文では、フィレンツェ人がリヨンにおいてどのように人脈を形成し、居住都市に影響を及ぼしたのかを明らかにした。その中で、同郷団という「結社」の役割を考察すると同時に、外国人がフランス王国に法的帰属を選択することになる背景についても検討した。査読の結果、2022年7月までに掲載されることが決定している。加えて、論文「16世紀フランスの外国人同郷団研究――「リヨンにおけるフィレンツェ同郷団史料集」の分析から――」(『神戸大学文学部紀要』)では、16世紀リヨンのフィレンツェ同郷団が残した史料編纂物を分析し、外国人同郷団がどのような組織運営を行っていたのか、同郷団とホスト社会との関係や危機管理、そして近世フランスの都市において外来者が移住と定住を選択する要因について考察した。 概説書『はじめて学ぶフランスの歴史と文化』および『フランスの歴史を知るための50章』では、16世紀フランスの時代的考察に加え、「祝祭と恩赦」など、都市議事録を用いた研究をコラムの中で発表した。 本来であれば12-1月にパリ、リヨン、ローマの文書館で史料収集を行う予定で、リヨン第2大学の研究者との研究打ち合わせや図書館・文書館での調査などを計画していたが、感染症の拡大に伴う渡航規制により実施できなかったことは大変残念であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料上いくつか確認したいこともあったし、新たな史料調査・収集という点では渡航できなかったため進められていないのではあるが、すでに入手できている史料、たとえば同郷団関係史料などを詳細に分析することで、今出せる成果を発表することはできたと思う。都市議事録はリヨン市文書館のHP上でも閲覧できるので、引き続き解読を進めていく。最終年度は、本研究費の総括となる16世紀リヨンの都市議事録研究の成果を発表したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は2つの方向性で考えている。 1つ目はヴァロワ期の都市と王権すなわち宮廷との関係を明らかにすることである。宮廷は社会で孤立したものではなく、たとえばそこに通う従者を通じて周辺の社会と密接に関連したものとして存在した。にもかかわらず、そのような視点で都市と宮廷の関係を捉えるものは今までほとんどなかった。 2つ目は16世紀後半のリヨンである。宗教戦争が激しさを増し、都市を分断していくこの時期の都市議事録の史料としての真の価値は、非常に緊迫した状況の中で市当局がどのようにライフラインの確保に尽力したのか、すなわち公共善の実践のありようが詳しく記されている点にある。他方で、リヨンでは宗派対立を克服するための新たな共生空間を構築する継続的な動きがあり、市当局が主導した平和の政治的実践については、オリヴィエ・クリスタン(ヌシャテル大学)の研究がある。多様な価値観が交錯するようになった近世都市の新たな運営方法をめぐり、都市が暴動や食糧供給、貧困対策などの具体的な諸問題にどう対応したかということについて、都市議事録の分析から迫りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
昨年度12-1月にパリ、リヨン、ローマの文書館で史料調査、研究打ち合わせなどを行う予定であったが、感染症拡大に伴い、渡航規制のため渡航できなかったのと、国内学会・研究会がすべてオンライン開催となったため、当初使用するはずであった旅費を使用しなかった。 繰り越した分は、成果を公開するための抜き刷り代や献本費として、また書籍の購入やPC、スキャナーなど物品の購入に割り当てていきたい。
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Research Products
(4 results)