2020 Fiscal Year Research-status Report
越境するユダヤ人:近世イタリアにおけるユダヤ人の改宗に関する基礎的研究
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18K01038
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
藤内 哲也 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (60363602)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヴェネツィア / ユダヤ人 / ゲットー / 改宗 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世ヴェネツィアのユダヤ人によるキリスト教への「自発的」な改宗の事例に着目し、キリスト教徒とユダヤ人の動的・可変的で重層的・多面的な関係性を明らかにするという本研究の目的のもと、ユダヤ人による具体的な改宗事例を発掘するために、ユダヤ人に関する異端審問関係文書をはじめとした史料やヴェネツィア史・ユダヤ史関連の研究文献を収集するとともに、異端審問史料やP・C・イオリ=ゾラッティーニの著書などの読解を進めた。 こうした活動の成果として、2020年11月3日にオンライン開催された第88回京都大学西洋史読書会大会において、「近世ヴェネツィアにおけるユダヤ人の改宗」と題する口頭発表を行った。この発表では、異端審問史料から抽出したユダヤ人の改宗事例について考察を加え、ユダヤ人の社会的上昇の手段としての改宗の意義を明らかにするとともに、キリスト教徒となったユダヤ人のなかには、改宗後もゲットーに出入りし、状況に応じてユダヤ人としての身分標識を着用するなど、両属的なアイデンティティを保持し、結果としてユダヤ人とキリスト教徒を隔てる境界線が溶解していた可能性を指摘した。 他方、新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、2020年9月に予定していたヴェネツィアでの現地調査と資料収集は実施できなかった。そのため、時期を変更して渡航することも検討したが、結局2020年度中の実施は不可能であったため、2021年度に事業期間を延長して実施予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度においては、本研究の対象である近世ヴェネツィアのユダヤ人による回収事例について、異端審問記録をおもな史料として、具体的な検討を行った。その結果、改宗したユダヤ人が表向きはキリスト教徒として振る舞いつつも、依然としてゲットーに出入りし、状況に応じてユダヤ人としての身分標識を着用するなど、両属的なアイデンティティを有していること、そのためユダヤ人とキリスト教徒を空間的、社会的に隔絶する「分離による共生」の基盤が侵食されている可能性が明らかとなった。こうした点は本研究の重要な成果である。ただし、まだ論文として刊行するには至っていない。 また、新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、前年度(2020年3月)に続いて2020年度もヴェネツィア国立古文書館や旧ゲットー地区等での現地調査や手稿史料の収集がでなかった。 以上のような進捗状況から判断して、「(3)やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主目的である近世ヴェネツィアのユダヤ人による改宗事例について検討するために、2021年度は2020年度において実施できなかったヴェネツィア国立古文書館での手稿史料の探索・調査や旧ゲットー地区における現地調査を優先的に行う。また、これまでに収集した異端審問関係史料やヴェネツィア貴族による記録、さらにはイオリ=ゾラッティーニによる研究文献等の読解・分析を進め、その成果をイタリア中近世史研究会等での口頭発表や論文の刊行により積極的に公表していく。 とりわけ、2020年度の研究成果から、社会的上昇を目的として改宗した男性のユダヤ人に対し、その妻や家族といった女性が改宗に同意しなかった事例が見られることから、改宗とジェンダーとの関係性という新たな視点からも検討を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度はイタリア史・ユダヤ史に関する史料は文献の収集は順調に進んだものの、新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、ヴェネツィア国立古文書館や旧ゲットー地区での調査を見送った。また、参加を予定していた学会や研究会が中止され、研究成果について口頭発表を行った学会もオンライン開催となったことから、旅費をまったく執行することができなかった。こうした事情で研究期間を延長したことから、次年度使用額が発生した。 2021年度は、2020年度において実施できなかったヴェネツィア等での現地調査・史料収集を実行するとともに、学会等での口頭発表を行って、着実に旅費を執行する予定である。
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