2018 Fiscal Year Research-status Report
姉妹共和国と国民祭典―総裁政府期における「革命の輸出」
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18K01043
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
山中 聡 東京理科大学, 理学部第一部教養学科, 講師 (80711762)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フランス革命 / 総裁政府 / 国民祭典 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランス革命期の後半にあたる総裁政府期(1795 年―1799 年)に挙行された国民祭典を、フランス本国と「姉妹共和国」の間で、比較することにより、「革命の輸出」を支えた文化政策の役割について、知見を得ようとするものである。姉妹共和国とは、オランダ地域、ライン川左岸、スイスに作られたフランスの衛星国を指す。そこでは従来の君主制に替わり、特権階級の廃止や議会制民主主義等といった、フランス革命の諸制度が導入された。姉妹共和国の数は多いため、本研究では、代表的な姉妹共和国であるバタヴィア共和国(オランダ地域に建国)の事例(1796年から99年の国民祭典)を取り上げることにした。具体的には、革命期後半の4年間にわたり、両国の首都で挙行された国民祭典を、4年間の研究期間(平成30年度から33年度)で考察するというものである。 2018年度に関しては、まずはフランス本国の国民祭典への理解を深めることが重要となった。本国での祭典の様相を把握せずして、他国との比較は、成り立たないからである。2016年から進めていた研究をまとめた論文が、2018年3月に査読を通過し、2018年9月に「フランス総裁政府期の国民祭典」(『西洋史学』265号)として刊行されたが、さらに研究を深化させるため、新たな論文の準備を進めることにした。その成果は、日仏歴史学会第8回研究大会で発表した(2019年3月28日、龍谷大学大宮学舎)。また総裁政府期全体の理解を深めるための考察も進め、その成果を「研究動向:総裁政府期のフランス革命再考に向けて-「バブーフの陰謀」を考える」『東京理科大学紀要(教養篇)』51号(2019年3月10日)で発表した。 いずれも、本研究を進める上で重要な一里塚であり、初年度としては、充実した研究実績になったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、毎年夏季に渡仏して、国立公文書館での史料調査を行うことになっているが、2018年度は、その作業を行うことができなかった。バタヴィア共和国(現在のオランダ)の首都で挙行された国民祭典の情報を収集することが、渡仏の目的であったが、そうした作業を進める前に、フランス本国で総裁政府期に挙行された国民祭典への理解を深めることが、何より重要であると考えたからである。そこで2018年度に関しては、海外調査を見送ることにし、これまでの研究で集めたフランスの国民祭典に関する史料の精査に努めた。研究は順調に進み、成果を日仏歴史学会で発表(報告名:「総裁政府期の立法府と国民祭典」)して、会場にいる革命史研究者から有益な助言を得ることができた。 その一方で、バタヴィア共和国の国民祭典を物語る史料についても、収集作業を怠らなかった。日本で収集できるものに関しては、可能な限り収集し、精査に努めたからである。具体的には、総裁政府期の立法府に所属した議員たちが、バタヴィア共和国との関係について、いかなる発言を残していたのかを知るべく、一次史料(議員演説と上院・下院の議事録を精査)を集めた。当時の立法府は二院制(上院は元老会で、下院は五百人会)であったため、上下の立法府で、表明された意見に差異がないかどうかにも留意した。また、フランス本国で挙行された国民祭典の中で、バタヴィア共和国に関してはいかなる言説が行き交ったのかについても、史料を再読して調査した。こうした作業を行うことにより、研究を進める上で有用な知見を得ることができた。 当初の予定とは、かなり異なる展開になったが、研究実績の項でも述べたとおり、ある程度の成果を公表でき、知見の収集でも一定の目標を達成することができたため、「おおむね順調に進展している」と結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、総裁政府期におけるフランスとバタヴィアの国民祭典を比較する際に、いわゆる「政治文化論」を視野に入れつつ、史料の再読に臨むことを考えている。「政治文化」とは、「人々が政治のあり方を規定する際に抱く思考や感情のセット」を指すが、これを提唱したF・フュレやL・ハントによると、革命家たちが発し、書き記した「言葉」や、「儀礼」・「シンボル」には政治を動かす力があり、この点を念頭に置きつつ、革命期の事物を見直すことが、重要な意味を持つ。 この「政治文化論」は、近年の革命史研究では、かつての「ブルジョワ革命論(フランス革命を資本主義樹立のための階級闘争として捉える)」にかわって、革命の本質やその総合的理解に資する視座として位置づけられている。それゆえ2019年度以降は、政治文化に関する先行研究を総覧した上で、姉妹共和国であるバタヴィアにおいて、いかなる政治文化が創出されたのかを明らかにすることが、第一の課題になるだろう。首都ハーグで総裁政府期に挙行された国民祭典の内容には、そうしたフランス製の政治文化との接触から生まれた「バタヴィアの政治文化」が、明確に反映されていたと考えられるからである。 そもそも姉妹共和国の創出は、政治指導層をはじめ、現地の人々の精神活動に相当な影響を与えたはずである。目まぐるしく変容する現実を前に、世論は大いに混乱したことも想像される。こうした状況から、バタヴィア共和国の指導者たちは、いかなる政治文化を創出しようとしたのか。この点を明らかにした上でなければ、国民祭典の政治・文化的特質の把握は困難であろう。今年度は夏季に渡仏して、史料調査を行う予定であるが、まずはその前に、既に入手した史料の再読を通して、バタヴィア共和国の政治文化を、フランス共和国のそれとの比較の上で描き出すことが、不可欠である。
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Causes of Carryover |
2018年度は、当初予定していた海外での史料調査を行わず、その研究費を必要な備品の購入にあてた。そのために、2018年度に使用できる研究費のうち、130020円を使用できないまま、次年度に繰り越すことになった。2019年度では、この130020円を、海外での史料調査にあて、旅費を合計530020円としたい。その他の内訳に関しては、現時点で、変更の予定はない。
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Research Products
(4 results)